2023-12-18

大和総研名誉理事・武藤敏郎「日本と中国は『引っ越しのできない隣人』。厳しい局面でも、とにかく対話の継続を」

武藤敏郎・大和総研名誉理事




紆余曲折ありながら出された「共同宣言」

 ─ 今回の共同宣言のポイントは?

 武藤 1番目は、23年は日中平和友好条約45周年ですが、これが全く機能していない。この条約の重要性を再認識し、政府間対話を再開することを政府に提案しようということです。

 2番目は核の問題です。これは初めて取り上げました。私は岸田文雄首相に、今回のフォーラムへのメッセージを依頼したんです。官邸にも外務省にも様々な意見がありましたが、会議前日に行われた中国主催の我々代表団の歓迎会の会場で、私が読み上げることになりました。

 その中に核の問題が書いてあったんです。G7広島サミットでも「核なき世界」が謳われましたが、今回のフォーラムでも共に核不拡散に取り組み、最終的には核なき世界の理想に現実を近づけるために協力して努力すると。これは画期的なことで、関係者は皆、よく共同宣言に盛り込めたなと言っています。

 ─ 岸田首相は核の問題に対しては並々ならぬ思いを持っていますが。

 武藤 首相のメッセージを元に、宣言につながりました。

 3番目はロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ問題が起きている今、戦争のエスカレーション(拡大)には反対するというものです。外交交渉による停戦や、対話による事態の沈静化に向けた、あらゆる努力を支持するという内容です。

 4番目は、日中の経済協力の重要性です。世界が分断される中、これ以上悪化させないために、経済対立のリスクを管理して、信頼回復と新たなビジネスを生み出す知恵が必要であるということです。

 5番目はデジタル社会の実現に向けて、共通の原則が必要であるという内容です。

 ─ 日中対話を終えてみて、どういう感想を持ちましたか。

 武藤 処理水、新スパイ法で極めて環境が悪い中、これまでで最も成果が上がった対話だという評価になっています。

 ─ 経済面ですが、改革開放を進めた鄧小平は「社会主義市場経済」と言いました。市場経済と共産党独裁は折り合いがつくと考えますか。

 武藤 これは最大のポイントです。日本もアメリカも、中国が市場主義経済になり、経済が拡大すると、政治が自由化すると思っていましたが、経済が大きくなったと同時に、共産主義も大きくなったのです。

 特に、習近平政権になって以降、鄧小平の改革開放より前の思想に戻ろうとしている。社会主義と市場経済のいいところ取りをしているんです。今や、経済力を背景に「一帯一路」を打ち出して、欧州、アフリカに影響力を拡大し始めました。

 日本としては、これは心配の種です。中国には14億の民がいますが、優秀な頭脳を持った人材も日本の14倍いると思った方がいい。そうした人材が、中国の戦略を考えるわけですから、日本が太刀打ちするのが難しくなりかねません。

 ─ とはいえ、歴史的にも経済的にもお互いに切り離せない隣国でもあります。

 武藤 ええ。日本と中国はお互いに「引っ越しができない隣人」ですから喧嘩や戦争をするわけにはいきません。

 政治家の中には、例えば尖閣諸島問題などを巡って、日本は強硬姿勢を取るべきだという人もいますが、尖閣諸島のために自衛隊を派遣するなどしたら、本当に戦争になりかねません。その時にアメリカが守ってくれると思っている人は多いですが、全てアメリカ頼みでよいのかどうか。日本はそうした現実を踏まえて行動する必要があります。

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