2021-03-14

「コロナ禍でも、職員を大事にする病院は経営がいい」東日本税理士法人・長英一郎所長

長英一郎・東日本税理士法人代表社員・所長

おさ・えいいちろう
1974年12月生まれ。97年中央大学商学部卒業。2000年公認会計士長隆事務所(現・東日本税理士法人)入所。07年公認会計士登録、12年東日本税理士法人社員(パートナー)就任、16年代表社員・所長就任。

「やはり人を大事にする医療機関は地域から尊敬されますね」と話す。医療機関の経営を監査する「監事」を長年務める長氏。コロナ禍で医療従事者は奮闘しているが、経営が厳しい病院も増えている。しかし積極的に患者を受け入れ、職員を大事にし、トップがリーダーシップを発揮している病院は経営状態もいいのだという。今後病院経営を考える上で重要なポイントとは。

中核病院と診療所の信頼関係が崩れて…


 ─ 長さんは医療機関を監査する「監事」の立場で医療改革に取り組んできていますが、新型コロナウイルス感染拡大によって浮き彫りになった医療の課題をどう見ていますか。

 長 特に東京で特徴として出ていますが、診療所では発熱をし、新型コロナへの感染が疑われる患者さんの診察や検査をしないところが多く、シワ寄せが地域の中核病院や大病院に行っているということです。病院と診療所間の信頼関係が崩れてきているという印象があります。

 ただ、診療所がコロナ疑いの患者さんを診ないという現象がある一方、コロナ疑いの患者さんを診て頑張っている病院に対しては補助金も付いていますので、補填もしていただいているのかなとは思います。

 ─ 長さんは病院の業務執行状況を監査する監事を務める中で、病院経営の現状をどう見ていますか。

 長 実は病院の状況は4月、5月だけは悪く、その後は補助金が入ったり、診療報酬も上乗せになるなどして戻ってきており、逆に補助金などで「焼け太り」になっていると表現される方もいるくらいです。一方、戻ってきていないのは小児科、耳鼻咽喉科、整形外科といった診療所です。

 しかし今、挽回のチャンスが来ています。コロナワクチンの接種が始まっています。ワクチン1本あたり2070円の手数料が医療機関に入りますが、それ自体が大きな利益になるわけではありません。しかし、接種を行うことで、その診療所は地域での存在感が出てくるのではないかと考えています。

 ─ コロナワクチンを、どうやって8000万人に接種していくかという問題があります。

 長 本当にとてつもないスケジュールで、医療機関が相当協力しなければ接種はなかなか進まないのではないでしょうか。東京オリンピック・パラリンピックを一つの目安にして、そこまでに何とか8000万人に接種してもらおうというスケジュールだと思います。問題は今、報道によるネガティブキャンペーンが始まっていることです。

 ですから医療従事者が先に接種してデータを取り、副反応の割合が諸外国と同じように少ないというデータが出れば、接種を前向きに考えてもらえるようになるのではないでしょうか。

 ─ 長さんの立場から見て、経営状況のいい病院というのは、どういう経営者あるいは理事長でしょうか。

 長 今回のコロナ禍で差が非常に出ています。職員を大事にする病院と、そうでない病院とで大きく差が付いてきており、職員を大事にしている病院は経営状態もいいんです。

 ─ 長さんが印象に残った病院のトップはいますか。

 長 やはりトップがリーダーシップを持って取り組んでいるところは、本当に経営者として尊敬できます。例えば、茨城県にある、つくばセントラル病院の竹島徹理事長は、院長とともに率先してコロナ、あるいはコロナ疑いの患者さんを外来で診ています。トップ自らコロナ患者さんを診ていると、他のメンバーも付いてきてくれます。

 ─ コロナ危機克服に向けて、長さんはどう対応をしていく必要があると考えていますか。

 長 台湾やニュージーランドなど、コロナを抑え込んでいる国を見ていると、一旦、感染者数をゼロ水準に持っていかないと駄目なのではないかと。飲食店やホテルは本当に厳しいとは思いますが、ゼロにしないと、元の生活に戻ることができないのではないかと考えています。

オンライン診療の課題は?


 ─ オンライン診療の普及に向けて、どのような課題があると考えていますか。

 長 実施する医療機関側に「高齢者の方にはタブレット端末などのツールは使えないだろう」といった思い込みがあります。確かに、高齢者の方はタブレットなどITのツールは苦手ですが、ご家族や介護職員などが手助けすればできます。

 厚労省は全てをオンライン診療にしなさいと言っているわけではないんです。例えば薬だけ受け取りに行くのにお医者さんに会いに行かなければならないのか? と言っています。オンライン診療は、患者さんにとっては感染防止に関しても、時間的にもメリットが出てきます。

 ─ 保険の点数については、対面とオンラインとの間で差はあるんですか。

 長 オンライン診療の場合、対面と比較して半分くらいの点数を請求できます。ただ、半分の点数になってしまうと、医療機関の収入は相当少なくなってしまう。また、機器のセッティングや通信トラブルなどもあり、あまりオンラインではやりたくないという本音もあるのだと思います。

 ─ 長さんが監事を務めるにあたって、このコロナ危機下、あるいは普段からでも心がけていることは何ですか。

 長 「患者視点の医療経営」です。単に利益を上げればいいという話ではなく、患者さんのことを考えて医療経営をしないと、病院経営があらぬ方向に向かってしまいます。

 基本は患者さんのニーズに、その都度応えることです。限られた医療資源の中でできることをやるのが大事で、基本は来た患者さんを断らないことです。原点に返ることが大事だと思います。

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