2023-12-16

【倉本 聰:富良野風話】世襲議員

今から80年近く前のこと。敗戦直後の東京の中学・高校の教室では反戦気分が漲っており、警察予備隊ができるらしいという噂に轟々(ごうごう)たる非難がまき起こっていた。つまり、世の中は圧倒的に左傾ムードに傾いていたのだが、組で只一人、何とも頑迷に予備隊賛成を叫ぶ奴がいて、妙に周囲から浮き上がっていた。

【倉本 聰:富良野風話】戦いの果て

 何であいつはあそこまでムキになって、孤立の道を選ぶのだろうと、まだ12、13歳の子供だった我々はそのことを不思議に感じていたのだが、級に一人マセたのがいて、仕様がないさ、あいつの一家は政治家の家系なンだからと呟き、ホウ、そういうもンかと思ったものだった。

 親たちの意見とか、取り巻いた環境の考え方は、否応なく子供に影響する。特にまだ戦前の家父長制度の残滓(ざんし)が色濃く残っていたあの時代には、それが一つの孝の道だったのかもしれない。ところで。思想や考え方の影響はともかく、「世襲議員」というこの国の、ある種特異な風習は、考えてみると中々根が深い。

 今、衆議院での全議員数465人のうち102人、即ち21%が世襲議員である。党派別に見ると自民党が断トツで261人中84人。即ち32%。実に3人に1人が世襲議員である。

 過去の総理大臣をふり返っても、小選挙区制が導入された1996年以降、内閣総理大臣12名のうち、世襲議員でないのはわずかに3名のみである(菅義偉氏、野田佳彦氏、菅直人氏)。

 世界の議員を調べてみるとアメリカ議会での世襲議員の比率は5%にすぎなくて、ブッシュ家、ケネディ家などは少数派。イギリスの場合は、ほぼいない。下院議員の約7割が生まれ故郷でも職場でもない選挙区から立候補する落下傘候補であり、保守党、労働党などでは「公募」を行って候補者を決定する「実力主義」が貫かれている。

 先日、国会で「ルパンだって三世までだ」と名言を吐いた元総理がいたが、かくも日本の世襲制度は笑いの種にすらなっているのである。しかも最近女性誌のとった〝期待できない世襲議員ランキング〟なるアンケートでは

 1位 岸田文雄 392票

 2位 小泉進次郎 306票

 3位 小渕優子 304票

 4位 鳩山二郎 110票

 5位 河野太郎 93票

 と中々の顔ぶれの揃い踏み。国民がもはや世襲議員を失笑のタネにしかしていないことが判る。

 ある政治通の説によれば、かかる世襲の原因は、実力者一家間の婚姻、即ち閨閥(けいばつ)によって誕生するゴッドマザーの野望に帰するところが大きいというのだが、とすると日本の政治体制は結局、大奥のお局の意向によって、どこかで左右されているのかもしれない。あんまり信じたくない話ではあるが、これもまた中々うがった見方であると、どこかで思えてくるのである。「ルパンの母」なんてドラマでも書くか。

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