「けれん味なく大胆」なリーダーによる実体験的経営書

　サッカー業界の門外漢からいきなりJリーグチェアマンに就任し、数々の課題、難局を乗り越えた村井満氏による実体験的経営書である。村井さんは同世代で私がもっとも尊敬する経営者の一人だが、この人はいわゆるカリスマタイプではなく、プロ経営者指向でキャリアを作ってきたわけでもなく、新卒でリクルートに入社してから一度も転職することなく、サラリーマンとしてのキャリアを積み上げてきた人である。

　もちろん日本最大の人材紹介会社リクルートエージェントの社長をつとめているので、経営者としての経験は十分積んでいるのだが、まったく畑違いの、しかも一癖も二癖もあるサッカーのプロたちがひしめき合うJリーグのトップにいきなり就任するという話は、人材紹介のプロである村井さん自身が第三者として相談を受けたらあまり勧めなかったのではないか。

　しかし、入場者数の低迷やファン層の高齢化問題、そして色々な不祥事やコロナ禍を乗り越え、世界初の全試合ネット配信を自社制作で実現するなど、8年間で村井さんの成し遂げた改革、イノベーションは見事なものだった。

　私はチェアマンアドバイザーとして、いくつかの重要局面で村井さんのリーダーシップを斜め後ろから眺める機会に恵まれたが、こうしたことができた秘密を知りたい人は是非とも本書を読んで欲しい。ヒントはまさに『天日干し経営』にある。村井さんを私が形容するならば「けれん味なく大胆」なリーダー。私が知っている中では日立製作所を再建した川村隆さんに似たタイプかもしれない。あの自然体に突き抜けた経営観、人生観がどこから来ているのかも、本書からうかがい知ることができる。

　特別な経験や教育がなくても、ビジネスパースンとして日々直面する問題に真摯に理路整然、公明正大に取り組む積み重ねが優れたリーダーシップと卓越した成果をもたらす。数多の経営を目指す人々に勇気を与える本である。