2023-11-22

みずほ銀行「スタートアップ支援」に見る金融像の変化、「取れないリスクを取るために知恵を絞る」

2023年10月23日から10日間開催された「みずほスタートアップウィーク」で挨拶をする木原正裕・みずほフィナンシャルグループ社長



 その課題に対し「普通にやったら取れないリスクを取るためにどうしたらいいか」(金田氏)について日夜知恵を絞ってきた。

 スタートアップの成長ステージはシードステージ、アーリーステージ、ミドルステージ、レイターステージの4つに分けられるが、成長が見極めにくいシードの企業に対しては、VCが運営するファンドにLP(Limited Partnership)出資をし、間接的に支援するという手法を取る。

 そこで構築したVCとの関係を生かして、スタートアップが次の段階に成長した際には、グループのVCであるみずほキャピタル等が投資をするという流れをつくることができる。

 直近で「取れないリスクを取る」ための取り組みは、そのみずほキャピタルが23年8月に設立した「みずほベンチャーデットファンド」。スタートアップが発行する新株予約権付社債を引き受けて資金調達を支援する。

 長期の融資を供給するのは難しい、ミドルステージで、時価総額100億円弱くらいの規模のスタートアップに対してリスク性資金供給に活用している。メガバンク系では初の取り組み。

 他にも23年4月には投資専門子会社・みずほイノベーション・フロンティアを設立し、スタートアップ等への出資を検討。「スタートアップの各段階に対して、少しずつ前倒しして支援するようにしている」(金田氏)

 今後、日本のスタートアップがユニコーンを目指す上では、国内市場だけでなく海外市場での成長も目指す必要があるが、その海外市場に不透明感が漂う。

 最大市場であるアメリカのスタートアップの資金調達額は前述の通り、22年に前年比3割減少したが、FRB(米連邦準備制度理事会)による急激な利上げにより、ベンチャーキャピタルなどが資金調達しづらくなっているのだ。「スタートアップ冬の時代」とも言われるほど。

 また、日本のスタートアップ資金調達額は着実に増加をしているものの、「まだ起業家が足りない」(金田氏)。資金が入ってこないから起業家が出てこないのか、起業家が出てこないから資金が入らないのか、これは「鶏と卵」の問題に例えられる。「確かに優秀層が起業するようになりつつあるが、まだ『寄らば大樹』という傾向は強い」(同)

 金田氏自身、マサチューセッツ工科大学(MIT)への留学経験を持つが、アメリカでは「MITやスタンフォード大学の最優秀層ほど起業している」(同)。ただ、その起業が失敗しても、大手企業で働いたり、再チャレンジをしたりというサイクルが回っている点が日本と違う。

 今なぜ、スタートアップが求められているのかと言えば、デジタル技術を起点に新産業が生まれると同時に既存産業の構造が大きく変化しているからだ。銀行も、デジタル技術で他の産業との垣根が大きく下がった。

 みずほ自身、システム障害を経て経営体制が変わり、木原氏以下経営陣は「カルチャー」を変えようと動く。一方、渋沢栄一が設立した第一勧業銀行、安田善次郎が創業した富士銀行、「工業の中央銀行」との志で設立された日本興業銀行と、旧3行はいずれも、日本の殖産興業の中で産業金融に取り組んできた「DNA」がある。

 安定経営が求められる銀行だが、リスクを取らなければ生き残れない時代。新たな金融の時代を迎えていることは確かだ。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事