2023-12-01

三井化学社長・橋本修「会社が何かをするのではなく、社員の自主的、自律的な発想ができるような環境づくりを」

橋本修・三井化学社長

「得意技、強みをつくっていくことが重要」と話す橋本氏。世界が脱炭素に進む中、スペシャリティケミカルへの変革を進める三井化学としても石油化学の転換を迫られている。石炭化学を手掛けた第1の波、石油化学に転換した第2の波、そしてグリーンケミカルという「第3の波」が来ている。化学は産業界の素材をつくる「縁の下の力持ち」的存在。日本の化学の将来像をどう描くか─。


中国、ブラジルで見た自動車業界の変容

 ─ 三井化学が素材を供給している自動車の世界では近年、電気自動車(EV)の普及が急速に進むなど、変化が進んでいます。現状をどう見ていますか。

 橋本 先日、久しぶりに中国に出張に行きましたが、私が見る限り、街を走る車の2、3割がEVでした。

 かつては自動車のクラクションが激しかったですが、今は規制されて罰金を取られるようになっている。しかも、街に設置された監視カメラで撮影された画像と、クラクションの音を同期させて、違反したドライバーに請求が行くこともあるようです。

 中国と好対照なのがブラジルです。サトウキビなどから生産したバイオエタノールで走る自動車が普及していますから、EVはほぼ走っていません。トヨタ自動車はブラジルではエタノールを使える内燃機関のハイブリッド自動車を発売しています。

 また、ブラジルの電力の約8割が水力発電、風力発電、太陽光発電という再生可能エネルギーで賄われています。

 ─ 日本はEVで出遅れていると言われますが、立ち位置をどう考えますか。

 橋本 日本は電気の世界に向かうと見ています。ただ、EVになれば必ずしもCO2が削減できるわけではありません。例えば、電池を生産するだけでも、多くのCO2を出しているわけですから、そのバランスをどう考えるかが大事です。

 また、EV化が進むにしても、一気にというわけではないと思います。ハイブリッドとセットで、いろいろな動きがありながらも徐々に電気の方向に向かっていくのではないかと。

 ─ 一方向で進むわけではないと。

 橋本 ええ。欧州では2035年にハイブリッド車を含むガソリン車の販売を事実上禁止する規制を打ち出していましたが、合成燃料の使用を認めるといった緩和策が出るなど、過渡期における微妙な流れがあります。

 ─ トヨタ自動車などは、動力源に関して全方位戦略を打ち出していますが、こうした背景もありそうですね。

 橋本 中国市場だけを見ているとEVがかなり普及しており、日本車は苦戦していますから、その視点では出遅れにも見えます。ただ、ブラジルの現状などグローバルに展開していると、全体を見てバランスを取りながら手を打つトヨタさんの考えも理解できます。

 ─ 地政学リスクが高まる今、政治的には難しい関係にある国でも、経済がつなぐ面もありそうですね。

 橋本 是々非々なのではないでしょうか。ビジネスはビジネスで、お互いに協力できることもあります。経済安全保障上でできない部分もある中で、できることをやっていくというのが、本来あるべき姿だと思います。

 改めて中国を見ていると技術発展には目覚ましいものがあり、先進国と遜色ないレベルになっています。CO2削減など環境関連技術の開発も積極的に進めていますし、自動車でも新興企業がかなり斬新なデザインの車を、高い価格で販売しており、しかも売れている。

 日本は長い年月をかけて先進国にキャッチアップしてきましたが、中国は短期間で、一気に追いつこうとしているのです。ただ、短期間であったがゆえに、先進国としての悩み、歪みも出てきているように見えます。

 中国には当社の関係会社が約20社ありますが、業績が良いところと悪いところがはっきりしています。全体的に言えばコモディティ分野の石油化学関連事業の会社は需給ギャップが大きく厳しい状況です。

 ─ 鉄鋼などでも、中国が安い鋼材を輸出して市況を悪化させることがありますが、化学でも同じですか。

 橋本 同じです。今は中国国内の内需の停滞が厳しく、特に石油化学のコモディティ分野についてはオーバーキャパシティで国内では消化しきれずに海外に輸出している。

 ─ 市況はかなり緩んでいると。

 橋本 ええ。ブラジルでも影響を感じるほどで、グローバルに、石油化学のコモディティ分野の市況は厳しくなっています。中国もスペシャリティ分野にシフトしようとしていますが、できる会社は限られているので、コモディティ関連の新規のプラント増設が相次いでいます。スペシャリティ分野に関しては我々に一日の長があると思っていますが、いずれそこにも中国はキャッチアップしてくると見ています。

 ですから、中国との関係は今までとは違う構図で考えなければなりません。技術の出し方、ビジネスのつくり方など、違うステージになったという前提で作り込んでいかなければいけないと考えています。

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