2023-10-26

日興リサーチセンター理事長・山口廣秀「日銀はまずYCCを撤廃すべき。次にマイナス金利の引き上げを」

山口廣秀・日興リサーチセンター理事長




「企業は守らないが雇用は守る」

 ─ 日本の成長に向けて、民間企業の役割は非常に重要ですが、一方で国、財政の役割との関係でどう捉えていますか。

 山口 成長との関連で最近、政府の役割が重視されるようになってきていると思います。特にESG(環境・社会・ガバナンス)、気候変動対応については、民間企業の行動だけに任せていては、適切な対応ができないかもしれません。その意味では政府が主導して対応を考える、あるいは企業行動に対して政府が関与していくことが必要だと思います。

 また、日本経済を活性化するためにはイノベーションが欠かせません。そのためには企業のリスクテイクがどうしても必要ですが、今は企業の姿勢は消極的に見えます。そうした観点からは政府が企業のリスクテイクの背中を押していくことが非常に重要になります。

 ただし、日本経済の力、潜在成長力を高めていくためには、やはり企業の自由な行動を基本原則として大切にしていく。それを前提にして政府が規制改革や労働市場の流動化といったことを進めていくということだと思います。

 ─ この時、既得権益との衝突は避けて通れませんね。

 山口 ええ。私は、政府が既得権益との調整を上手にこなしていくことで、経済全体の新陳代謝を促していくことが重要だと考えています。そこで大切なのは「企業は守らないけれども、雇用は守る」という原則をしっかり頭に置き、それを明らかにしていくことが必要です。

 これによって初めて、新陳代謝が促されるようになり、労働市場の流動化とも絡んで、労働者が次の職場に移動することができる。これが可能になれば、経済全体も活性化されるのではないでしょうか。

 ─ 日本企業の9割は中小企業ですが、業績が厳しいところも多く新陳代謝の必要性も言われていますが政治のリーダーシップも問われます。

 山口 そう思います。企業がどんどん倒産することは望ましくありません。ただ、地方などでも賃金を上げないと人が集まらない状況になっています。その結果として倒産に追い込まれる企業も出てくるかもしれません。

 その際には、「雇用を守る」という考え方に立って対応していくべきだろうと思います。日本経済が中小企業に支えられていることは事実ですし、中小企業のない日本経済は想定できませんから、しっかり頑張ってもらう必要があります。一方で新陳代謝も必要だということです。

 ─ 金融機関の意識改革も必要になりそうです。

 山口 金融機関も、そうした意識を持ちながら企業と接することが必要です。地域を守ることが、全ての企業を守ることになってしまっては新陳代謝は進みません。金融機関も企業や産業の新陳代謝を促していくことが、元気な地域経済をつくることにつながるのだという意識を持つべきだと思います。

 また金融機関自身にもイノベーションが必要です。すでに、預金を集め、貸出をするというタイプの伝統的な仕事はメガバンクを中心に見直しが行われていると思いますが、地域金融機関も自ら新しい仕事を求めていく姿勢が大事です。

 地域商社やコンサルティングの仕事を進めている銀行もありますし、提携を通じて規模を大きくし、それをベースにリスクを取っている銀行も出ていますから、いい動きだと思います。

 ─ 日本には「自助・共助・公助」という原則がありますが、大事になるキーワードは?

 山口 私は自助だと思います。国も企業も個人も、自ら助くるものを助く、これが重要です。高齢者や弱者などをどう救うのかという立場に立てば、共助や公助も大事ですが、大きな基本は自助だと思います。

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