2023-10-06

日本生命保険社長・清水博の「社会課題の解決へ、生保の使命と役割論」

清水博・日本生命保険社長



労働力人口減の中で

 生保各社は今、大きな変化に直面する。1つ目は、保険加入者である働く世代が減少していること。15歳以上の働く人、つまり労働力人口(就業者と完全失業者を含む)は約6860万人で、前年比8万人減と、減り続けている(労働力調査)。

 労働力人口の減少という基本構造変化の中で、その変化に対応した新しい保険商品・サービスをどう開発していくのか。併せて、顧客にそれをどう届け、提案していくのかというチャネル(経路)構築という課題。

 同社は、契約者と対話する営業職員約5万人を抱える。DX(デジタルトランスフォーメ―ション)と絡めて、この営業職員の生産性をどう引き上げていくかは重要な課題。



デジタル時代に「対面」をどう捉えるか

「販売ルートは多様化していますが、営業職員ルートも代理店も金融機関窓販も全部対面なんですね。対面の中の姿は変わってきましたが、新規契約となると、9割以上を対面が占める。これは20年、30年、それ以上前から変わっていないと思います」

 保険ニーズが多様化し、新しい保険商品を開発すればするほど、「より説明を要する商品になっている」と清水氏は語る。

「ガンなどの三大疾病の場合、どういう状況になった時に保険金が出るのか、医療に関しても、どういう時に出ないのか。お客様の細かいニーズに沿おうと思えば思うほど、説明を要する商品になってきている」

 課題は、コロナ禍で進んだリモートワークのように、対面で顧客に会う機会が減ったこと。また、コロナ禍で営業職員の研修が減り、今後、「教育の量と質、この2つをどう向上させていくかが課題です」と清水氏。

 最近、営業職員の不正問題も散見される。対面販売、ことに営業職員の対面ルートは大宗を占めるだけに、この〝教育の量と質〟の向上は欠かせない。


試練を迎える生保

 今後、保険金を受け取る高齢者は増えていく。ことに、この高齢者層は金利が高い時代に保険に加入しており、満期や死亡時には高額の保険金支払いが発生する。加入者と受給者のバランスをどう取っていくかも課題となる。

 また、若い世代の〝保険離れ〟にどう対応していくか。

 この問題は、岸田文雄・現政権が掲げる〝分厚い中間層〟をつくる政策とも関連してくる。

 かつての高度成長時代は、国民の多くは、「自分は中間層」と受け止め、懸命に働いた。しかし、〝失われた30年〟の間、正規、非正規社員の格差が生じ、平均所得中央値は、かつての年収5百万円から3百数十万円台に下落している。

 この30年間デフレ状況が続き、賃金も上がらず、若い世代の間には、生命保険に保険料を投じる余裕のない層が少なからずいると思われる。これが若い層の保険離れの一因になっているとすれば、やはりマクロ経済の成長をどう図り、実行していくかにかかってくる。新しいステージへ向けての経営者の覚悟が問われるユエンだ。


日本生命に寄せられる『期待』と『課題』

「日々の仕事に携わっていますと、課題だとか問題だとか、まだまだできていない事とか、とにかく悩みと言いますか、そういうことばかりに目が向きがちですけれども、営業職員とか、お客様や他社の経営者の方々とかと話をすると、自分たちが感じている以上に日本生命に期待というか、期待する声が大きいことを正直、驚きをもって感じるんです」

 期待される半面、緊張感が要求される時代。では、取引先企業との対話、エンゲージメントをどう進めるのか?

「とりわけ、二酸化炭素をたくさん排出している企業との対話ですね。例えば、どのような脱炭素の目標を置いておられるか。そこに向かって、どのような工程を作っておられるか。そのために具体的にされていることは何か。それを実際に1年、2年、3年経って、できていましたか、できていませんかと。こういった形で繰り返すことによって、二酸化炭素排出は多い企業に対して、一種のプレッシャーですね。プレッシャーを与えながら必要な支援に応じていく。脱炭素に向けて、よりドライブをかけていく。これが機関投資家の役割だと思います」

 例えばトランジションファイナンス枠の設定─。脱炭素に向けた取引先企業を資金面から支援するもの。

「実際に口だけではなくて、金も出して支援する。このことによって、脱炭素をよりドライブさせていこうと。そして、脱炭素への取り組みを推進するための世界のルールづくりにどう関わっていくかが課題です」

 NZ・AOA(ネット・ゼロ・アセットオーナー・アライアンス)─。二酸化炭素排出のネット・ゼロを目指す機関投資家の集まり。数社あるコアメンバーの中に日本生命も参加している。

「残念ながら、われわれもまだ最先端の情報が十分に取れていない。せっかくトランジションファイナンス枠を設けても、それにふさわしい技術とか、もっと勉強しなければいけないと事業部門に言っています。難しいけれど、教えてもらうことを含めて、最新情報を取る努力をもっと続けようと」

 新しい保険ニーズ開拓、そして課題解決を背負っての試行錯誤が続く。

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