2023-10-06

日本生命保険社長・清水博の「社会課題の解決へ、生保の使命と役割論」

清水博・日本生命保険社長




金利上昇局面を迎えて

 清水氏が社長に就任したのは、2018年4月。この時、3つのテーマを掲げた。1つは収益力の強化。これは保険の販売量と運用力の強化、リスク管理体制の強化を図ろうというもの。

 2つ目が変革の推進。とりわけ、DX強化と新規事業の開拓。そして3つ目がグループの強化である。同社には、大樹生命(旧三井生命)、ニッセイ・ウェルス生命保険、はなさく生命保険など、グループ各社がある。

 社長就任から5年数カ月が経ったが、自らをどう総括するか?

「それぞれに手は打てていると思うんですが、この3年余のコロナ禍が会社に与えた影響というか、ダメージというんでしょうか、相当大きいなと感じています。とりわけ、対面を中心とする営業職員チャネルが受けた影響は大きいと思います」と清水氏(インタビュー欄参照)。

 2020年2月に始まったコロナ禍。生保会社の利益水準を見る指標に『基礎利益』がある。この基礎利益が、コロナ禍3年目に当たる2022年度(23年3月期)は4794億円と前期(22年3月期)と比べ、43.7%もの大幅減となった。

 ちなみに、保険料等収入は6兆3735億円で、前期比18.3%増で、23年3月期は増収減益決算となった。

 減益となった主因は、新型コロナウイルス感染症関連で〝みなし入院〟への給付金支払いが急増したこと。

 また、この間、米国など海外の金利上昇で保有する外国債券価格が下落。これによる〝含み損〟が大きくなったのも減益要因となった。

 一方で、海外の金利上昇は外貨建て保険の販売を伸ばすことになり、これは増収(保険料等収入)につながった。

 ちなみに、同決算期の基礎利益で第一生命ホールディングスは3642億円で33.8%減、明治安田生命は4018億円で11.1%減、住友生命は2613億円で22.6%減と、大手生保は軒並み減益となった。

 コロナ禍が一段落した今、24年3月期は日本生命と第一生命は共に増益の見通しを掲げる。明治安田は横バイ、住友生命は減益という見通しである。

 今後、生保の業績を左右する要因の1つが金利の動向だ。日本銀行の植田和男総裁体制が今年4月にスタートして半年近くが経つ。2013年4月からの大規模金融緩和策も今、〝転換期〟を迎えている。

〝失われた30年〟を招いたデフレからの脱却を目指しての異例の金融緩和で、マイナス金利(2016年2月に導入)や長期金利を操作するYCC(イールド・カーブ・コントロール)政策が導入された(2016年9月)。

 植田新総裁は金融緩和の基本的な枠組みは残しつつ、YCCの柔軟化に踏み切った。また、賃金上昇を伴う物価上昇に確信が持てる段階になれば、マイナス金利解除も含めて、「いろいろな選択肢がある」と表明。

 今、日本の消費者物価は年率3%台の上昇(前年比)。「円安もあって輸入物価の上昇から始まったが、今は労働ひっ迫などの国内要因で物価が上昇。日銀が目標にしている2%程度に落ち着かないとなると、高齢社会の日本では人々から相当強い不満が出てくる」(元日銀幹部)という声もあがる。

 そこで、早目にYCCは撤廃すべきで、マイナス金利政策も「見直すべき」との声が出始めた。


『金利のつく時代』へ

 ともあれ、日本も〝金利のつく時代〟に入ろうとしている。

 この金利動向について、清水氏はどう考えるのか─。

「金融政策自体は日銀の決定事項ですので、これがいいか悪いかに関してはコメントできませんが、植田総裁になられて、物価上昇が一定程度安定して続いて、経済発展と賃上げが継続的に行われるような経済にしていくと。YCCの柔軟化は行われましたけれども、基本的な金融緩和の枠組みは維持されています」

 清水氏は、YCC柔軟化を含む最近の金融政策について語る。

「債券市場がずっと低金利のままですと需給バランスで、なかなか市場が機能していません。そこの市場機能の回復を多分狙ったものだろうということで、これは投資家としては歓迎すべきことだと思っています」

 清水氏は、金利のつく環境について、「それは基本的にいいことだと。間違いなくいいことだと思います」と強調する。

 金融正常化の兆しを感じ取った日本生命は今年1月、円建ての一時払い終身保険(契約時に保険料を一括で支払う仕組み)の利率を、0.25%から0.60%に引き上げた。

 この利率引き上げは2007年以来、16年ぶり。こうした前向き姿勢が好感されてか、今年度の第1四半期(4月―6月)の保険料等収入は前年同期に比べ約5倍に伸びた。

 金利上昇機運を背景に、貯蓄性のある保険商品の利率引き上げを図る動きが相次ぐ。

 住友生命は今年10月から、個人年金保険の一部について、『予定利率』(契約者に約束する利回り)を0.65%から0.80%に引き上げる。契約者にとっては、将来受け取る年金が増えることになる。

 こうした利率引き上げは、結局、生保事業者の保険料等収入も増やすこととなり、生保会社間の契約者獲得競争が一段と活発になりそうだ。

 ちなみに昨年度(23年3月期決算)での保険料等収入で日生は第一生命に抜かれた。今年度は巻き返しを期すとしている。

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