2023-08-08

保険金水増しのビッグモーター 不正の背景と損保業界の責任

影響はどこまで広がるのか…(写真はイメージ)

「保険金の不正請求は私の管理不足で招いたこと。私の責任であり加害者」と話す一方、「社員にもやっていいこととそうでないことがある。償いはしてもらいたい」と社員に責任を求めるのはビッグモーター社長(7月26日付で辞任)の兼重宏行氏。

 車両修理に伴う保険金を水増し請求していたビッグモーターは創業者の兼重氏が辞任したが、経営危機やユーザーに広がった波紋が収まる気配はない。

 外部弁護士らで構成する特別調査委員会の報告書は修理件数の4割超で何らかの不正や不適切な行為が行われ、保険金の水増し金額は4995万円に上ると指摘したが、全容解明はこれから。保険代理店契約を結び、長年、社員を出向させてきた損害保険ジャパンなど大手損保各社の責任を問う声も上がる。

「ゴルフボールを入れた靴下で車体を叩き、ひょうの被害の範囲を拡大する」「ドライバーやサンドペーパーで車体に傷をつける」……。報告書が指摘した整備士による不正行為の横行ぶりは耳を疑うような内容。

 不正横行の背景にノルマ至上主義が指摘されるが、目標を置くこと自体はおかしくない。問題は経営トップが現場を知らず、不正の責任を現場に押し付け、さらには自分たちは退任で事を済ませようとしていることだ。とても達成することが不可能なあり得ないノルマを設定し、社員が不正に手を染める風土をつくったことに対して経営トップに責任があり、ガバナンスの本質的欠陥である。

 兼重氏は息子で副社長だった宏一氏とともに辞任したが、自身の関与は否定し、責任を現場に転嫁する姿勢さえ示した。専務から新社長に就いた和泉伸二氏も会見で「兼重氏のリーダーシップと卓越したビジネスモデルで業界を代表する企業になった」と述べるなど経営刷新とは程遠く、「自浄作用は期待できない」(国交省幹部)のが実情。

 ユーザーは保険金の水増し請求で修理代が高額になった結果、本来、使わずに済んだはずの自動車保険を適用され、保険の等級が下がり、割高な保険料を支払わされた可能性がある。

 損保各社は取り過ぎた保険料の返還を進める方針だが、全ユーザーに救済策が講じられるまでに相当の時間を要しそうだ。ビッグモーターの業績悪化が続けば経営危機が深まり、補償に応じられなくなる恐れもある。

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