2023-08-03

「給油地点から生活プラットフォームへ」ENEOS・齊藤猛の事業構造変革論

写真はイメージ



エリアによって求められる需要は違う



 もう一つ、大きな課題がSSの活用法。国内石油元売り首位のENEOSは日本全国に1万2千超のSSがある。それも大都市からへき地まで、郊外にも繁華街にも拠点があることは同社にとって大きな強みだ。

 しかし、今後は国内の人口減少・市場縮小や脱炭素化の流れの中でガソリン需要が減少。同社は2040年までに19年比でガソリン需要が半減するとの見通しを示しており、SSの存在価値を再定義。ガソリンの給油所からEV(電気自動車)の充電拠点へ変更するだけでなく、地域特性に応じた新たな生活プラットフォームへ生まれ変わらせようとしている。

「今後、モビリティサービスを増やしていくことで、SSはカーリースやカーシェアなど、車を所有しない人たちのための車ビジネスの拠点にもなり、中古車販売の拠点にもなる。また、過疎エリアなどにおいては、宅配やハウスクリーニングなど、ライフサポートサービスの拠点にもなり得る」(齊藤氏)

 2021年度には、具体的な実証実験を行った。ENEOSは三井不動産と連携し、千葉・柏の葉でオンライン診療の実証を実施。ボックス型の専用無人ブースを設置し、遠隔地の医師をオンラインでつなぎ、来場者が健康相談サービスを受けられるようにした。現在は、今後のさらなる実証可能性を検討している。

 また、ENEOSはSSを配送拠点として活用するため、今春、三菱商事との共同出資会社「Life Hub Network」を設立。全国1万2千超のSSを荷物の一時保管や最終配送拠点として活用することで、最終配送拠点から配送先までの区間(ラストワンマイル)を短縮し、配送の効率化を目指そうとしている。

 物流業界ではEC(電子商取引)市場の拡大に伴い、消費者向けの宅配荷物が増加。ラストワンマイルにおける効率的なサービスの需要が高まっている。

 一方で「2024年問題(時間外労働の規制強化によりトラック運転手の不足が懸念される)」に代表されるように、運転手の人手不足や長時間労働が深刻化するなど、課題が多い。

 このため、両社は全国に展開するSS拠点に着目。SSを荷物の配送拠点として活用することで、大型倉庫から送付先への直接配送に比べて必要な走行距離が削減されることから、運転手の負担や配送コストの低減につなげようという試みだ。

「三菱商事との取り組みは、トラックの運転手さんの人手不足や長時間労働が深刻化していることの解決の一助になればと考えている。エリアによって求められるサービスが違うので、地域の方々の利便性を高めるためのサービスを組み合わせて、SSを新たな生活プラットフォームとして活用していく」と語る齊藤氏。

 石油の需要減少への対応や製油所やSSの活用をいかに図るかは喫緊の課題。新たな拠点の活用法を見出すため、試行錯誤を続ける同社である。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事