2023-07-24

大和総研副理事長・熊谷亮丸氏に直撃!岸田政権が目指す「新しい資本主義」のポイントとは?

熊谷亮丸・大和総研副理事長(内閣官房参与)




「新しい資本主義」をどう具体化していくか

 ─ 岸田政権は6月6日に「新しい資本主義」の実行計画案を公表しました。今後をどう見ていますか。

 熊谷 実行計画案の中での大きな柱は「人への投資」、「構造的な賃上げ」、「労働市場改革」、「分厚い中間層」などです。

 今、政府は「三位一体」の労働市場改革を打ち出しています。1つ目がリスキリングによる能力向上の支援、2つ目が「ジョブ型雇用」など、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、3つ目がスタートアップ企業など成長分野への労働移動を円滑化することです。

 また、「成長と賃金上昇の好循環」を進めるために必要なのは価格転嫁です。企業が物価上昇分を価格に転嫁し、それによって、さらに賃金が上がるような循環をつくっていく。

 具体的には赤字法人が賃上げできるような施策の検討や、最低賃金の引き上げなどがカギとなります。

 ─ 産業を振興し、成長につなげることも必要ですね。

 熊谷 そう思います。その意味で投資の促進が重要です。半導体や蓄電池、データセンター、バイオ、水素、量子、AI(人工知能)などを戦略分野として定めています。

 また、これまでは単年度予算で、なかなか企業の予見可能性がありませんでしたから、複数年度の予算を検討することで、企業が安心して投資できる環境をつくっていきます。

「新しい資本主義」の柱は社会的課題の解決です。従来は社会政策によって解決していましたが、企業、民間の力を使って、社会的課題の解決を成長のエンジンに変えていく。

 その中では、社会的課題を解決するようなスタートアップ企業、「インパクトスタートアップ」に対する認証制度をつくるなど総合的な支援も行っていきます。

 加えて、私も分化会委員を務めた「資産所得倍増」です。NISA(少額投資非課税制度)の投資枠を3倍にまで高めるなど、給与所得だけでなく資産所得の部分で、「分厚い中間層」にお金が回っていくような仕組みづくりをしていく。考え方としては、松下電器産業創業者の松下幸之助さんが言われた「1億総株主」のような状態をつくっていくということです。

 ─ 22年の合計特殊出生率が1.26となるなど、少子化対策がますます問われます。

 熊谷 少子化対策については、どうしても児童手当の話ばかりが取り沙汰されますが、それだけではなく「働き方改革」なども重要です。

 特に女性が、ある一定の年齢以上になると非正規労働者になってしまう「L字カーブ」の問題があります。この問題が解消できれば、大和総研の試算では向こう20年間で女性の所得が60兆円以上伸びます。

 今の少子化の中身を見ると、すでに結婚している方が産む子供の数は少ししか減っていないのですが、結婚するカップル自体が大きく減っています。この問題の根っこには正規、非正規の格差がありますから、これを是正していくことが大切です。

 例えば、本当は正規で働きたいけれども、不本意ながらも非正規で働いている人の問題を解消することができると、向こう20年間で30兆円以上、所得が増えることになります。

 この正規、非正規の格差の是正は、少子化対策であること以上に、新しい資本主義の柱として取り組む必要があります。

 ─ コロナ禍では財政支出が増加しましたが、今後の方向性は?

 熊谷 財政運営は、財政出動を平時に戻すという方向性です。他方、いま岸田政権は「モダン・サプライサイド・エコノミクス」(MSSE=現代版の供給重視経済学)という考え方に関心を持っています。

 これは、社会課題の解決などに財政支出を有効活用するという考え方です。かつてのサプライサイド・エコノミクスは、米レーガン大統領が掲げた「レーガノミクス」のように規制改革などの供給サイドの政策が中心でしたが、MSSEでは脱炭素など、社会課題を解決するために財政支出を有効活用していく。

 需要を一時的に上げるために財政を使うのではなく、PDCAを回して、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング=証拠に基づく政策立案)で財政の費用対効果をチェックします。財政支出が社会課題の解決や成長につながっているかを不断に検証していくことが大事になります。

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