2023-07-24

大和総研副理事長・熊谷亮丸氏に直撃!岸田政権が目指す「新しい資本主義」のポイントとは?

熊谷亮丸・大和総研副理事長(内閣官房参与)




日銀の政策運営をどう見通す?

 ─ 日本は長年デフレが続いてきましたが、脱却しつつあると言っていいですか。

 熊谷 脱デフレは着実に進行しています。これまで日本の物価は0%台が続いてきましたが、1%台前半から半ばくらいまで、物価の基調が上がってきています。

 1つの象徴的なデータとして、価格改定の頻度が高い品目の「伸縮価格」と、頻度が低い品目の「粘着価格」があります。伸縮価格は過去、上下動を繰り返していますが、粘着価格は90年代前半頃から全く上がっていませんでした。これが足元で90年代前半以来の、3%近い伸び率を示しています。物価の「潮目」が変わってきている可能性があるのです。

 物価は過去の物価に引きずられますから、実際に足元の物価が上がってくると、それにつれて期待インフレ率が上がり、家計や企業の行動が変化する可能性があります。

 労働需給はバブル期に迫るくらい逼迫するなど人手不足が深刻化しています。そのため、転職した人も、引き止められて残った人も、どちらも給与が上がり始めている状態です。

 ─ 5月の消費者物価指数は生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.2%の上昇ですが、それでも政府・日銀が目指している物価目標2%の達成は容易ではないというのが日銀の植田和男氏の見方ですね。

 熊谷 そうですね。先程、春闘での賃上げ率が3.6%程度という話をしましたが、足元のデータから推計すると、来年は少なくとも3.2%くらい上がる可能性があります。しかし、物価が2%に達するためには春闘で4%くらいの賃上げが必要なんです。

 そのことからも、デフレを脱して1%台の物価は定着するかもしれませんが、日銀が目指す2%に達するとは断言できない状況ではないかと考えています。

 ─ 今後の日銀の政策運営をどう見通していますか。

 熊谷 植田総裁の就任時には早いタイミングで正常化に動くのではないかと見られていましたが、今は正常化に総じて慎重だという見方が優勢です。

 日銀の政策オプションはいくつかあります。1つ目はイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の枠内での修正です。金利変動の許容幅の拡大や、現在は10年債を縛っていますが、誘導対象を2年から5年くらいの年限に変えるといったものです。

 2つ目はYCCの撤廃です。ただ、これを予告して実行すると無限に国債を買わされることになりますから、不意打ちで実施せざるを得ません。

 3つ目は、実施される可能性は低いものの、政府と日銀の「共同声明」の修正です。例えば2%の物価目標を、判断材料の1つに過ぎないという位置づけにし、縛りを弱めることです。

 4つ目がマイナス金利からの脱却、5つ目が量的緩和の縮小となります。

 ─ 市場ではYCCの修正や撤廃を睨む声もありますが、植田総裁は慎重なようですね。

 熊谷 大和総研のシミュレーションでは、YCCを撤廃して長期金利が上がったとしても、実体経済に与える影響はそれほど大きくありません。日本は長期金利よりも短期金利の方に、より経済主体の活動がリンクしているからです。

 YCCを撤廃して長期金利が上がることによる影響は決定的なものではなく、むしろマイナス金利から脱却して短期金利を上げる方が、より大きな問題です。ここは来年の後半以降に、相当慎重に進めるのではないかと見ています。他方で、YCCに関しては、今年から来年にかけて、何らかの修正に着手する可能性があります。

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