2023-07-26

【東京医科歯科大学と経営統合】東京工業大学・益一哉学長に直撃!

益一哉・東京工業大学学長



東京医科歯科大学の危機感

 ─ 田中学長も危機感を持っていたのですね。

 益 はい。東京医科歯科大学はコロナ禍で重症患者を最も多く受け入れました。

 田中学長によれば、「パンデミックという危機時にコロナ感染者を受け入れなくて、どうして社会のための病院か」という思いがあったそうです。そこは社会に対する自分たちの貢献と考えたわけです。

 ただ、それだけで良いのかとも思ったと言います。田中学長の言葉を借りれば、自分たちは今の医療を築き上げたという自負心はあるけれども、これからの医療を考えられる大学であるかと。その危機感です。

 一方の東工大は理工系の重工業や化学工業といった産業に強いけれども、従来型の日本の得意とした産業だけで良いのかという危機感を持っている。その危機感が新しい大学をつくってでも日本のために貢献したいという点で合致したわけです。

 ─ 両大学の統合は産業界でもインパクトがあります。

 益 ええ。日本の産業が全然伸びていないという点に対して、大学としては新しいものをつくり出せる人材を生み出していなかったという反省があります。

 先ほどの半導体にしても、世界で主導権がとれなかったのは技術偏重になっていたからです。良い物をつくれば売れると勝手に考えていた。ですから、パフォーマンスを追い求めてしまったわけです。しかし世界は半導体のビジネスモデルを変えていきました。DRAMからプロセッサーに変わり、ファウンドリービジネスに変わったのです。

 しかし、日本の経営者はそのビジネスモデルの変化に気がつかなかった。半導体は最先端を追い求めないといけないから、そこに注力し、投資をしていかないといけなかったわけですが、その投資の判断ができなかった経営者もいたわけです。そういった経営者を育てたのは誰だと言われれば、それは大学です。

 ─ 半導体産業での敗北は企業にも大学にも要因があると。

 益 2020年に「コロナ敗戦」という言葉が使われました。敗戦と言えば1945年の敗戦が75年前にありました。日本は太平洋戦争で敗北し、あれだけボロボロになっても日本人は「もう1回、世界に出る」と頑張った。ですから、もう1回グレートリセットし、このコロナ敗戦から立ち戻ればいいのではないかと。しかし、事はそう単純なものではありません。

 明治時代、日本は世界に追いつかないといけないと考えて富国強兵をスローガンにして世界に出ていきました。そこでの成功を経て世界での存在感を高めたわけですが、太平洋戦争で敗北した。しかし、焼け野原の状態から高度経済成長期を経て世界第2位の経済大国になった。ただ、この場合は朝鮮動乱という特殊な要因がありました。

 つまり私の持論は、これまで日本は自らの意思で挑戦したことがない国だということです。だからこそ、これからは従来のような外圧で成長するのではなく、自らの意志で「こうなりたい」という強い思いを持って自分たちの将来を切り拓いていかなければならないと思うのです。

 ─ そこは米国との大きな違いとも言えますね。

 益 そう思います。ですから、教育も新しいことに挑戦する人間を育てていかなければなりません。

 東工大はこれまでも、単に技術を学ぶ、自分の興味のあることだけを学ぶ人材を育てるのではなく、しっかりとした志を持った人材を育てていくと言っていました。それは開校したときからです。それを今こそ実行しなければなりません。


統合によるメリットとは?

 ─ では両大学の統合によるメリットは何ですか。

 益 1つはリベラルアーツ教育です。東工大では工学の中でも専門の違う人たちが同じリベラルアーツ教育を受けていますし、博士になったら学科の違う博士レベルの学生がいろいろな議論をしています。ここに東京医科歯科大学の医学部系の学生たちが入ってくれば、またかなり違ってくるでしょう。

 そしてもう1つが医工連携です。医療機器や医療材料の研究力は双方の強みを掛け合わせることで強化されると思いますし、医療情報ビッグデータやデータサイエンスなども期待されるでしょう。その中でも私が強調したいのは、まずは気合いが違いますということです(笑)。

 医学部と工学部では部門の壁のようなものがあるのではないかと言われたりもしますが、そこは全くなくしましょうと。自由でフラットな組織を構築し、研究環境と人間関係も自由でフラットなものにしていきましょうと。その下で新しい大学を築きましょうと強調しています。

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