2023-07-19

日本取引所グループCEO・山道裕己の「日本に魅力はある。内向きにならずにもっと外を向いて」

山道裕己・日本取引所グループ・グループCEO




PBR1倍以上の実現を要請した理由

 JPXは2014年にスチュワードシップ・コードを導入。そして翌15年にコーポレートガバナンス・コードを導入した。

 2018年、2021年と改訂を入れながら、『コンプライ・オア・エクスプレイン』の原則の導入を企業側に促してきた。

 コードを導入するようコンプライ(実行)するか、しないならばしない理由を、株主などのステークホルダーにエクスプレイン(説明)するということ。

 要するに、「資本コストと株価に注目した経営、投資家との対話の内容の開示を要請した」(山道氏)ということである。

 山道氏が指摘するように、日本株がこれまで実力よりアンダーウェイト(低評価)され、世界の投資家から「日本株は外してもいい」という扱いを受けてきた背景の1つに、コーポレートガバナンス面での課題があったということも否めない。

 東京証券取引所は、山道氏が社長を務めていた2022年4月、『プライム』、『スタンダード』、『グロース』の3市場に再編した。

「この市場区分の見直しのスタートというのは、あくまでもスタートであって、ゴールではない」と山道氏は訴え続ける。

 市場区分の見直しを行った背景にあったものは何か?

「もともと上場基準と上場廃止基準、今は上場維持基準と言いますが、大きな差があったんですね。1度上場したら、上場廃止基準に引っかかって、上場廃止になる会社は毎年3社位しかないんですよ。それ位に低かった。そこで、市場区分の見直しに合わせて、上場基準と上場廃止基準(今の上場維持基準)を一緒にしたというのが、1つの大きな動きだったんです」

 上場基準のギリギリにある企業にとっては、毎年これをクリアするというのが、企業価値を上げる1つのインセンティブ(刺激)になるという読みだ。

 上場維持基準には、例えば、〝流通株式の金額は100億円以上〟などとある。この基準も、時価総額1兆円以上のような大企業にとっては、正直に痛痒も感じないし、何のことはない物差しだ。

「そういった人たちに、どうしたら企業価値の向上に取り組んでもらえるかという議論の中で出てきたのがPBRです」と山道氏。

 前述のように、プライム市場の半分位がPBR1倍割れという現実。東証は具体的にどう動いたのか?


『エンゲージメント』が求められる時代

「わたしが東証の社長として最後の3月31日に出した要請文の中には、PBRとは書いていないんですよ」

 山道氏は、「要するに資本コストと株価を意識した経営とお願いしています」と語る。

 PBR(株価純資産倍率)は絶対的な指標ではない。ただ、「示唆に富むもの」という山道氏の認識だ。

 PBRはROE(自己資本利益率。一般に8倍以上が好ましいとされる)とPER(株価収益率。株価が1株当たり純利益の何倍の価値になっているかを見る指標)の掛け算になる。PBR=ROE×PERという数式である。

「ROEは今の時点での収益性なんですけれども、PERは将来に対する期待値も入っているということ」と山道氏は語り、「これをハードな基準にするのは馴染まない」と言いつつ、次のように続ける。

「ただ、ROEが高いのに、PERが低いとなったら、何らかのIR活動が必要だと。投資家に対するアピール、説明とかコミュニケーションが取れていないのではないかということも考えられるということですね」

 IR(investor Relations)。企業が株主や投資家に対し、財務状況などの情報を提供する活動も含め、対話が求められるということ。

 最近の企業経営で『エンゲージメント』(約束、履行。経営者と従業員の対話という意味もある)という言葉が使われる。

 株主との対話が重要としながら、山道氏は強調する。

「エンゲージメントファンドと言われている人たちであったとしても、それが全体の株主にとって有効な提案でなければ、株主総会では当然否決されるでしょうし、対話を深めていただければと思います」

 経営者も自分たちのビジョンや経営の進め方を堂々と表明するときだ。

 想定外の事が起きる今の時代にあって、経営者にも〝覚悟〟が求められている。

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