2023-03-15

AGC・島村琢哉会長 「ポジションによって待遇、報酬を変える『日本型ジョブ型制度』も一つの道」

島村琢哉・AGC会長




「両利きの経営」実現へ、企業文化を変える

 ─ 島村さんはこれまで、既存事業の深化と、新規事業の探索を同時に実践する「両利きの経営」を進めてきましたね。

 島村 「両利きの経営」は流行り言葉のようになっていますが、既存事業をブラッシュアップしながら新しい領域に出ていくということですから、恐らくどの会社もやっていることなんですよ。ただ、やり方がそれぞれ違うと。

 この「両利きの経営」は学んでやるのではなく、ごく自然に古いものを進化させ、新たな成長のためのネタづくりをしていくことだと思うんです。当社では既存事業を「コア事業」とし、新たな成長に向けた事業を「戦略事業」として取り組みました。

 チャールズ・オライリーは、それを見て「両利きの経営」だと評してくれたわけですが、付け加えて「ポートフォリオを変えたり、新規事業を探すのはどの会社もやっているけれども、それが変化に対応して継続して、自律的に変革していかなければいけない。それができるかどうかが『両利きの経営』を成功させられるかのキーだ」と言っていました。

 ─ 島村さんが意識して取り組んでいたことは何ですか。

 島村 何か特徴的なことをやったのかと言えば、企業カルチャーを変えることに集中的に取り組んだことでしょうか。

 難しい話をするのではなく、我々経営陣が、とにかく現場に行って、直接対話をしていました。トップがメッセージを出しても、現場に伝わるまでに伝言ゲームのように内容が変わってしまいます。ですから、直接我々経営チームの言葉として伝える必要がありました。社長になって3年間は年間50カ所ほどを周り、140回ほどのミーティングを行いました。

 ─ 実際にはどういう反応がありましたか。

 島村 最初は否定的でした。「新しい社長は何を言うのかな」、「早く終わってくれないかな」という雰囲気でした。大人数を集めると、どうしてもそうなりますから、それとは別に少員数でのミーティングを各地で3回ほど実施しました。

 それを繰り返しているうちに「チャッティング」(雑談)から「ダイアローグ」(会話)になってきます。人間の尊厳を認識し、お互いが対等の立場で話すことができるようになります。その次のレベルが「ディスカッション」(議論)です。

 よく「ディスカッションをしている」と言いますが、実際には単なるチャッティングで終わっていることも多い。そのレベルを上げていかなければ、本当のディスカッションにたどり着かないと思います。

 ─ 社長在任の6年間でかなり手応えはありましたか。

 島村 ええ。3年経った時にエンゲージメントサーベイを行ったところ、10数項目が全てプラスになりました。我々がやり続けたことが、大きな効果につながったことが嬉しかったですね。業績はコストダウンすれば上がりますが、人の気持ちはお金では変えられません。

 グローバルでも「何のために仕事をするのか」、「何のためにAGCは存在しているのか」ということに立ち戻ると、国籍に関係なく腑に落ちるんです。自らの存在価値を見つめ直したことが、成果を得られた最大の要因ではないかと思います。

 ─ 日本企業が成長するために必要なことは?

 島村 よくイノベーションと言われますが、実はイノベーションって、案外我々が気が付かないところに転がっているのではないかと。画期的なことを想像しがちですが、少しつなぎ合わせ方を変えて、違った価値を生み出すことだったりするのではないでしょうか。あまり難しく考えずにやっていくことも大事ではないかと思います。

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