2023-02-15

再考 日本の安全保障戦略(最終回) 元防衛大臣・森本敏


国家と国民の安全を守るには



 ─ そうした中で、産業界の果たすべき役割とは何だと考えますか。

 森本 戦略指針全体を通して、特に、サプライチェーン(供給網)の維持・確保、研究開発の重要性、及び、人材の育成や隊員の処遇改善に重点を置いた内容になっていたことは極めて適切です。

 若い人材が欧米に基礎科学を研究するため、留学をするに際して、国が全面援助する制度を採用してほしいと思いますし、彼らが日本の技術を高め、それが国家の安全保障にとって極めて貴重な基盤となるのです。

 また、以上の施策を実行する際、防衛産業の協力は不可欠です。産業界も体質の改善を図り、求められる情報を率直に提供できるよう、経済安全保障や防衛装備・生産のための経営組織を再構築する努力が必要です。政府の援助に期待するだけでなく、産業の体質を改善する努力を進めるべきです。

 ─ 防衛費総額は5年で43兆円と、岸田政権は現状の約1.5倍に防衛費を増額しました。改めて、このことの意義をどう考えていますか。

 森本 このような抜本的な施策を進めるため、今後5年間で43兆円の防衛予算を組むことにいろいろな意見が出ていますが、国家と国民の安全を守るには金がかかるものです。

 今回の戦略指針にかかる予算措置について、浜田防衛相のリーダーシップと財務省の柔軟かつ、前向きな対応には感心しました。金よりも社会の安定や人の命の方が大切です。増税は誰でも嫌ですが、しかし、国の安全と国民の生命を守るには痛みを伴うのです。

 われわれにはそれを受け止める覚悟が必要なのです。(了)

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