2022-10-27

 【「死の谷」を越えろ!】  帝人・三井不動産・国立がん研究センターが 日本初の「再生医療プラットフォーム」づくり

三井不動産が運営するオープンイノベーション拠点「三井リンクラボ柏の葉1」(千葉県柏市)

日本発の医療プラットフォームは「死の谷」を超えられるか─。帝人、三井不動産、そして国立がん研究センターが連携し、「再生医療」への取り組みを開始した。開発止まりで最終製品に至らない「死の谷」に陥ることが多かった日本の医療分野。研究者と企業間の連携が弱かったのだ。それを克服すべく生まれたのが今回の枠組み。過去の失敗に学び、成功事例を生み出せるか─。

再生医療の開発から商用化まで一気通貫で


「再生医療プラットフォームを構築し、がんを始めとする未解決の疾患への革新的治療法を創出していく」─こう力を込めるのは帝人グループ理事で再生医療新事業部長の中野貴之氏。

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 2022年9月27日、帝人、そのグループで再生医療を展開するジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J―TEC)、三井不動産、そして国立がん研究センターは、産学連携による「再生医療プラットフォーム」の構築を進めることを発表した。

 拠点となるのは、三井不動産が主導した開発した「柏の葉スマートシティ」(千葉県柏市)。同社が運営する「三井リンクラボ柏の葉1」は、国立がん研究センター東病院、同センター先端医療開発センターに隣接しているが、ここに帝人とJ―TECが連携して「CDMO」(医薬品開発・製造受託機関)拠点を構築する。

「高い専門性を持つ学術機関と、事業化ノウハウを持つ企業が連携し、再生医療を用いた治療法の開発から商用生産までの課題解決をワンストップで提供する」(中野氏)

 まずは「細胞医薬品」の製法開発や、治験薬製造を行うCDO(医薬品開発業務受託)拠点として、23年第4四半期稼働を目指す。この拠点とJ―TECの愛知県蒲郡市の拠点、山口県岩国市に帝人が改修予定のCMO(医薬品受託製造)拠点を連携させていく。

 J―TECは日本で唯一、再生医療製品を商用生産できる施設を持つ企業。21年3月に帝人グループの1社となった。これまで日本初の再生医療製品である「自家培養表皮」や、「自家培養軟骨」など4つの再生医療製品を市場に送り出してきた。

 今、世界では「再生医療」を活用した治療法の開発が進んでいるが、日本は研究、開発、製造など、事業化するための各段階で、医学界、産業界の間での知識やノウハウの共有が不足していることで、製品が市場に出てこないという大きな課題を抱えている。

「国も、我々研究者も、バイオ医薬品、特に再生細胞医薬品を開発し、患者さんにいち早く薬を届けたいと思っているが、現状では、国内での開発の状況は欧米に比べて遅れている」と話すのは、国立がん研究センター先端医療開発センターセンター長の土井俊彦氏。

 イノベーションを起こすような製品の開発においては、様々な壁が立ちはだかる。アイデアや基礎研究段階における壁が「魔の川」、製品開発から事業化の間にあるのは「死の谷」、そして事業化から事業拡大の間に「ダーウィンの海」があると言われる。

 日本では、第2段階の「死の谷」を超えられない研究が多いことが、特に問題視されている。実用化に向けた知識を持つ人材の不足や、研究・開発資金の不足など様々な要因が指摘されるが、課題は明らかなのにもかかわらず、なぜこれまで解決できてこなかったのか?

「研究者は最高の材料、技術で最高の製品をつくりたい。しかし、そうすると『フェラーリ』が出来上がってしまう。誰もがフェラーリを乗りこなせるわけではない」と土井氏。研究者側に上市を見据えた視点がなかったことを指摘する。

 また、最近でこそオープンイノベーションが言われるようになったが、研究者は独自で研究を掘り下げて、他と交わることが少なかった。その分、基礎研究を掘り進めたことでノーベル賞などの成果につながった面も指摘される。

 一方、企業の側も日本的に研究者に遠慮をしてしまったりするなど、相互理解がなかなか深まってこなかった。

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