2021-12-27

「いざ」というときに完全に止める!【マツダ】のコ・パイロット思想

ドライバーの体調が急変しても、ハザード・ランプを点滅させて減速停止に向かっていることを周囲にも知らせる。

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IT企業の自動運転との違い

 これらの中で肝となるのが1つ目のドライバー状態検知技術。カメラを使いながら人間の行動分析をするものだからだ。栃岡氏は「医学や脳科学の知見が必要となり、我々自動車メーカーにはその知見はない。そこで広島大学医学部や筑波大学医学部、滋賀医科大学などの医師と協力し、病気などの症状が出たときの振る舞いとはどんなものかといったデータをとらせてもらい、数値に置き換えていった」。

 クルマを止めることに価値がある─。このマツダの考え方の背景には日本が直面する高齢化と同社の経営哲学が絡む。

 同社は運転行為が健康寿命の延伸につながると捉え、「クルマを楽しく操れれば心は活性化する」(同)と捉える。例えば、筑波大学の調査によると、運転をやめた人は運転を続けている人と比較しても、要介護認定のリスクが2・16倍になるという。

 また、運転している高齢者は認知症のリスクが37%減るという国立長寿医療研究センターの調査もある。要は、クルマを運転することで健康寿命の延伸につながるというわけだ。高齢者の健康寿命の延伸は国の医療費削減にもつながる。


ドライバーが運転不能と判断すると、自動かつ安全に停車する

「走る歓び」─。マツダは運転するという行為に価値があるとみており、運転そのものをなくす発想には立たない。運転者の不注意や異常を検知することで車両側を制御し、事故を防ぐことを目指す。その実現に向けた第一歩がコ・パイロットだ。

 コ・パイロットは22年にも市場投入する同社のラージ商品群から導入する。「1・0」と称したレベルでは一般道で減速停止し、高速道では左車線を走行していれば路肩退避できる技術を搭載。25年以降にはドライバーの異常検知にとどまらず、運転者の脳機能低下を予測する技術を実用化することも目指す。

 世界では自動運転技術で鎬を削っている。中でも米アルファベット傘下のウェイモなどのITジャイアントは運転手を介さない「レベル4」や「レベル5」の完全自動運転で交通事故を防ごうとしている。ミスを犯す人間が運転に関与すること自体に問題があると考えているのだ。

 ただでさえ、電動化などに資金を投じなければならない中で、トヨタ自動車を凌ぐ資金力とIT技術を誇るITジャイアントと、世界でも中規模メーカーに位置するマツダが同じ土俵で勝負しようとしてもジリ貧になることは火を見るより明らかだ。また、日本勢でも世界初の「レベル3」搭載車を市販したホンダなど、自動運転に対するアプローチに違いが出てきている。

 その中でマツダは「運転する」という行為に可能性を見出す。人間中心のマツダの思想が消費者に受け入れられるかどうか。それが試されることになる。

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