西武百貨店の販売部長に呼び出されて……
大阪・八尾の本社を車で朝4時に出発。午前6時に新大阪を発車する新幹線に乗り込んだ。
池袋西武は午前10時オープンだったので、売り場の2階に直行し、商品を並べるという作業。
「お昼頃になると、売り切れて何も売り場にはない。全部売れるわけです」という人気ぶり。
“消化仕入れ”というやり方で、百貨店側もその日のうちに完璧に売り切れるので、利益を確実に確保できる。もちろん、売り手の『ミキハウス』にとっても良い取引で、いわばウィン・ウィンの関係がつくれたということである。
ところが、珍事が起きた。
「まだ、コンピュータが使われていない時代ですから、西武百貨店の販売部長が呼びつけるわけです。ちょっと木村さん、来てくれと。それで、大阪から東京・池袋へ出向いていったら、『木村さん、やる気があるんですか』といきなりパンチを喰らいましてね」
販売部長は、「せっかく、優遇して、販売場所を確保して提供したのに、商品は1つもないじゃないですか」という。
その販売部長は日課として、午前中は百貨店内部の事務作業をやっており、午後3時か4時頃、店内の販売状況を目で確認するために巡回していた。
『ミキハウス』の商品は昼頃までには売り切れており、午後3時、4時頃の巡回段階では、何もない状態。このことを、その販売部長は知らずに、「商品が売り場に並んでいないじゃないか」と怒り出した。それで、木村を東京に呼びつけて、「木村さん、やる気がなかったら、あの売り場を返してくれ」と言い出したのである。
これには、木村も啞然としてしまった。
「こちらは褒められると思ってたら、えらい剣幕で怒られるわけ。やる気がないならと言われてね。ちょっと待ってくださいよと。部長さん、われわれ朝6時に新大阪を発って、商品を運んで、昼までには売り切っているんですよと。あなたは販売伝票を見て、モノを言ってるんですかと切り返したんです」
まだコンピュータ処理が百貨店の販売現場で行われていない時代の珍事。件(くだん)の販売部長は多分、仕事の忙しさに追われて、肝心の伝票を見る間もなく、『ミキハウス』の売り場をのぞき、「商品が並んでいない」と勘違いしてしまったということ。
呼び出された木村は、その場で、女子社員に伝票の数字を引き出させ、販売部長の目の前に突き出した。
すると、その2階売り場で断トツの売り上げを示す数字が並んでいた。おそらく、販売部長はひと月に1回位、まとめて伝票を見ていたので、日次の販売数字を知らなかったのであろう。
目の前に、売り切れているという“現実”を見せつけられた販売部長はただ黙っていたというが、データという証拠が物事を決するというのは今でも変わらない。
それから40数年、『ミキハウス』の人気は上昇し、定着していった。
同じ池袋で駅西口の東武百貨店でも『ミキハウス』の商品は扱われ、「このコロナ禍でも毎月3千万円位は売れています」と木村は語る。他社の子ども服の10倍くらい売るという実績。
長い歴史の中には、こうした出来事や試練があるし、それを1つひとつ乗り切っていくということであろう。
(敬称略、以下次号)