2021-05-15

日本の“失われた30年”を脱却するには? 答える人 冨山和彦・日本共創プラットフォーム社長(その2)

冨山和彦氏



日本社会も法人共助で救えない人が急増している



 ―― 現在、日本の開業率は4~5%台、廃業率も3%台と、欧米に比べて低いですね。

 冨山 欧米は10%台ですからね。普通は新陳代謝があるので、これくらい行くのですが、日本は両方低いですよね。

 この間、何が進んできたかというと、現実の経済構造や社会構造が変化し、個社に共助責任を負わせるという仕組みが持たなくなってきた。結果として非正規やフリーランスが増えてきた。そうなると、法人共助で救えない人がものすごく大きくなったんですよね。

 今回も政府はものすごい勢いで雇用調整助成金を出しているんですが、こうした制度があることを非正規の人たちや会社自身が気づいていないケースも実は結構ある。こうした人たちが最悪自殺するケースも増えているということで、現在は日本社会の中で、法人共助で救えない人たちがすごく増えてきた。それが今回のコロナ禍で明らかになってきたのです。

 ―― これは本来、マイナンバーがきちんと整備されていれば、救える命もあったと言っていいですか。

 冨山 それはあるでしょうね。きちんとマイナンバーが個人の口座に紐づいていれば、すぐにお金を振り込むことはできますから。

 だから、今回のコロナ禍を一つのきっかけにして、わたしが思っているのは、コロナを機に新陳代謝を前提とした社会の仕組みづくりが問われてくるということです。

 ―― そうすると、過渡期にどう安心感を与えるか。

 冨山 日本に新陳代謝を起こすには、会社が潰れることもあるし、会社を手放したり、買わなきゃいけないことも起こってくる。そういうことを個人や社会がもっと理解しないといけないし、一方で、新陳代謝が起こることによって、そこで働いている人の人生が壊れず、むしろ豊かになるような制度設計が必要になってくる。

 例えば、ヨーロッパは雇用を大事にするし、社会民主主義的な国が多いけど、解雇はあるわけです。でも、日本のように、頑強に解雇はさせない、不当解雇された人は職場復帰させろ、なんて空気は全くありません。

 むしろ、ヨーロッパの各国では、不当解雇された人たちに対して1~2年分の年収を支払って、別の職に移りやすいような仕組みをつくっています。変な話、不当解雇された人が元の職場に戻っても働きにくいでしょうから、わたしは2年分の給料をもらっている間にもう一度勉強したり、スキルを習得したりして、次の仕事を見つけた方がいいと思います。

 だから、日本に必要なのは新陳代謝と、新陳代謝をしていく中で個人は仕事を移っていく。その中で、どうやったら仕事を移っていく人たちが今まで以上に幸せになることができるか。そういう仕組みを考えることが必要なのだと思います。

【プロフィール】

とやま・かずひこ

1960年生まれ。85年東京大学法学部卒業。在学中に司法試験合格。92年スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年産業再生機構設立に参画、COO就任。解散後の07年に経営共創基盤を設立、代表取締役CEO就任。20年10月より共同経営者(パートナー)グループ会長をつとめる。同年日本共創プラットフォーム設立。

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