2024-03-25

ミライロ社長・垣内俊哉「障害者の就労拡大へ、企業、個人双方に課題がある中、意識ある企業は動き出している」

垣内俊哉・ミライロ社長




コロナ禍によって精神障害者が増加

 ─ 日本では足元で、障害者は何人おられるんですか。

 垣内 今、国の方で明確に出している数字は965万人です。ただ24年4月以降、この数字はアップデートされる予定です。

 顕著なのは精神障害者の増加です。この3年で1.5倍にまで膨れています。なぜ、ここまで増えたかというと、コロナ禍によってリモートワークなどが増加したことで、若い方を中心にして心を病んでしまうケースが増えているのです。

 精神障害者の増加に伴って、企業との係争、民事訴訟も増加しています。様々な企業が、障害者雇用にまつわるトラブルに見舞われているのです。

 ─ この原因をどう見ていますか。

 垣内 各企業の現場の人が理解をしていないからです。障害者雇用の担当者は理解していても、いざ配属されると現場が理解していないことで揉め事が起きるのです。

 この状況を何とかしようとする企業は増えてきています。例えばダイハツ工業さんは本社から工場勤務の方に到るまで障害者や高齢者への向き合い方やサポート方法をお伝えする「ユニバーサルマナー検定」を受けて、行動と意識を変えようとしています。

 全員が取り組まなければ、障害者の離職率低下は実現できないということを意識する企業が増えてきているのです。民事訴訟が増加する中、この状況を必要以上にネガティブに捉えて「面倒くさいから罰金を払っておけばいいだろう」という企業が増えていかないように、今後は、いい事例を広げていくことが大事だと思っています。


障害者法定雇用率が段階的に引き上げ

 ─ 今後、障害者の働き方において、課題になりそうな問題はありますか。

 垣内 1つは障害者法定雇用率の引き上げです。現行、民間企業での法定雇用率は2.3%とされていますが、24年4月から2.5%、26年7月から2.7%と、段階的に引き上げられることが決まっています。

 今はどの企業も、一定数雇用はしているものの、多くがギリギリのラインです。それがいきなり2.5%、2.7%ですから、企業の対応は大変だろうと私も思います。

 どこかでドライブを踏まないと雇用は進まなかったとは思いますが、このままではどの企業も罰金や企業名の公開という事態になってしまう。しかも今、外資系企業が障害者を「持って行っている」状況です。

 ─ これはどういうことですか。

 垣内 先日、グーグル日本法人の渋谷オフィスを見学させてもらいましたが、バリアフリーが完璧でした。例えば、カードをタッチする必要のある場所が全て低い位置になっていることに加え、各フロアに多機能バリアフリートイレがあり、併設されたジムは車椅子での利用が可能、さらにはオフィスには点字ブロックが設置されており、社食ではアシスタントが障害者をサポートしてくれます。

 このような至れり尽くせりの外資がある一方、日本企業の対応はそこまで至っていませんから、障害者は外資に就職するケースが多いのです。

 なぜ、外資がこれだけの対応をしているかと言えば、米国では「ADA(障害を持つアメリカ人法)」という法律の存在が大きいのです。米国企業はこの法律によって障害者への公的義務を課されていますから意識が高い。日本とは歴史が違います。

 ですから、東証プライム市場に上場していても、障害者雇用、特に身体障害者を採用するのが難しいという日本企業は多いのです。

 ─ この課題を解決するために必要なことは?

 垣内 今後、専門の部署を設けた上で、会社全体として最低限、浅くてもいいので知識を得ていくことです。学んでいく姿勢がなければ、やはりミスマッチは起きますし、場合によっては裁判になることもある。

 多様性、共生社会の実現という大義はもちろんですが、企業のイメージを毀損させず、守っていくためにも、障害者に関する教育、研修はしていかなければならないと思います。

 ─ 先程、日本には障害者が965万人いるということでしたが、そのうち働いている人は何人いますか。

 垣内 現状は60万人です。この60万人しか働いていないというのは、どう考えても歪です。これは障害者の就労意欲が低いことがあげられます。その理由は、お金を使える場所がないからということに行き着きます。

 要は、車椅子で入ることができる飲食店、旅行に行きたいと思える場所、ユーザーフレンドリーな小売店がどれだけあるかといえば少ない。障害者がお金を使いたいと思える社会にしないことには、彼らが頑張って学ぼう、働こうという意識になるはずがないのです。

 ですからユニバーサルマナーを様々な店舗に広げていくのはもちろんのこと、障害者が買いたいと思える商品を増やし、外に出られなくても手軽に購入ができる環境を整えることで、消費を喚起する状況にしていきたい。

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