2024-03-04

【政界】「国の基本像を描け!」との国民の声 問われる国会議員の使命と役割

イラスト・山田紳

国民の政治不信が高まっている。「政治とカネ」の課題解決と同時に国の基本像を構築しなければならない。世界の地政学リスクが高まっている中での安全保障政策をどう構築するか。それと同時に、少子高齢化に伴う社会保障の財源をどう確保するかなど、国のカタチを決める議論が求められる。しかし、今の国会論議は低調。今秋の総裁選に向けて「ポスト岸田」を探る動きも見え隠れする。国の基本姿勢をつくり得ない政治とは何なのか─。

【政界】岸田派解散に他派閥も追随して大変動の予兆 「政治とカネ」でさらに問われる首相の指導力

新たな枠組み

「平成元(1989)年の政治改革大綱を想起し、『政治は国民のもの』との立党の原点に立ち戻り、我が党自らが変わらなければならない」

 自民党刷新本部が1月25日に決定した中間とりまとめの冒頭、そう記されていた。政治改革大綱は、値上がり確実な未公開株が政治家や官僚に譲渡されたリクルート事件を受けて自民党が決定したもので、近代的国民政党を目指し、「派閥解消」が盛り込まれていた。

 もっとも、こういった改革大綱を打ち出したものの派閥は解消されることはなく、その5年後の1994年、野党に転落していた自民党は党改革実行本部が派閥解消を再び打ち出した。それでも「政策集団」として事実上の派閥が続き、15年後の2009年に再び下野した際も党再生会議が派閥解消を表明している。

 それから15年が経った今年、「令和のリクルート事件」と呼ばれる〝裏金問題〟が自民党を直撃し、首相で党総裁の岸田文雄が岸田派(宏池会)の解散を表明。最大派閥の安倍派(清和政策研究会)のほか、二階派(志帥会)や森山派(近未来政治研究会)が派閥解散を決めた。しかし、党刷新本部は「いわゆる『派閥』の解消」を掲げてはいるが、「真の『政策集団』」として活動することを容認した。

 過去の歴史を踏まえたようだが、副総裁の麻生太郎が率いる麻生派(志公会)と、幹事長の茂木敏充が会長を務める茂木派(平成研究会)が存続する構えを見せていることに配慮したともみられている。新たな自民党の姿を示すことができるかは不透明で、中堅・若手議員の一部は不信感を募らせている。

 参院議員の青山繁晴ら有志議員は、政治刷新本部の中間とりまとめ公表に合わせ、派閥全廃の実現を目指す「政治(まつりごと)変革会議」を立ち上げた。国会内で開いた初会合には代理を含めて15人の衆参両院の国会議員が出席した。

 政治変革会議は、派閥の存在を「ボスが存在し、カネを作り、所属議員に分配し、閣僚や副大臣、政務官の政府人事を支配し、自民党の人事も隅々まで支配し、党中党の私的な集団でありながら、あたかも公的な存在かのように振る舞ってきた」(設立趣意書)と位置づけ、派閥パーティー開催を法律で禁止し、党本部による人事配置の実現を目指すという。

 ただ、青山は「派閥全廃のための会議ではない。新しい政治を作るために、従来の派閥を一旦なくすことが必要。それができる人は党総裁でもある首相しかいない」とも語る。カネと人事にとらわれない新たな枠組みづくりを、岸田が主導するよう促すのが狙いともいえる。


動き出す無派閥議員

 派閥解消が実現できなかったのは、派閥はリーダーを総理・総裁に押し上げるための集団という色合いが濃いからだ。実際、党内では従来の派閥ではないグループが活動を活発化させている。岸田内閣の支持率が低迷する中で、今秋の総裁選を睨んだ動きともいえる。

 保守系議員でつくる「保守団結の会」は2月8日、党本部で会合を開いた。団結の会は元首相の安倍晋三が顧問を務めたこともあり、安倍派の議員が多く参加してきた。この日は、かつて安倍派に所属していた無派閥の経済安全保障相・高市早苗が講師としてマイクを握り、経済安全保障上の機密情報を扱う資格を国が認める「セキュリティー・クリアランス」制度の重要性を語った。

 保守団結の会は今後、これまで各派閥が総会を開いていた木曜日の昼に隔週で会合を開く方針を確認したことから、保守系議員が党内での存在感を高めようとする「新たな派閥化の動き」と見方が広がった。総裁選に意欲を示す高市の基盤固めの狙いもあるとされる。

 さらに、無派閥の若手・中堅議員のグループ「無派閥情報交換会」も発足した。発起人には元首相の菅義偉に近い元官房副長官の坂井学や元幹事長の石破茂側近で財務副大臣の赤沢亮正ら約20人が名を連ねた。

 赤沢は「無派閥の我々がろくに声をあげないから派閥の弊害が増長している側面もある。自分たちの問題として、しっかり受け止めないといけない。無派閥の我々ができることがある」と語る。光の当たることが少なかった無派閥議員の結束と発信力の強化を目指す。

 菅や石破は参加していないが、かつて石破に近い議員が「無派閥連絡会」を結成し、石破派(水月会)に衣替えしたことがあり、報道機関の世論調査で首相候補として人気の高い石破を押し上げる狙いもありそうだ。石破は2月10日、総裁選に関し「期待がある以上、お応えはしたい」と鳥取市内で記者団に語っている。

 坂井も自身が主宰する無派閥議員グループ「ガネーシャの会」の活動を続ける方針だ。菅に近い議員十数人がこのグループに参加し、週1回の会合を重ねてきた。「菅グループ」とも呼ばれ、「事実上の派閥」とされたため、一時はグループ解散を検討した。それでもグループの在り方を検討した上で活動を続け、存在感を維持することにしている。

 無派閥の元総務相・野田聖子は「派閥の支援がなければ総裁選に出られないという常識が変わった」と歓迎。これまで総裁選出馬に必要な20人の推薦人を集めることに苦労してきただけに、「今年は最初で最後の大きな勝負に出る年だ」とも語っている。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事