2024-02-22

【政界】岸田派解散に他派閥も追随して大変動の予兆 「政治とカネ」でさらに問われる首相の指導力

イラスト・山田紳



「改革の先頭に」

 1月25日、自民党は臨時の総務会で政治改革に向けた「中間取りまとめ」を了承した。その席上、岸田の発言はやる気に満ちていた。

「私自身が先頭に立ち、この内容を実行する。政治改革に終わりはない。党の信頼回復のために議論を続けていかなければならない」

 起死回生の一手で自派を解散した岸田だが、今後は政権運営に他派閥勢力からの協力が得にくくなることも予想される。であれば、政治改革の実行力を世論にアピールして内閣支持率の再浮上につなげ、党内外の求心力を取り戻すしかない。

 ただ、麻生が派閥維持を表明する中で、派閥の全廃を打ち出すのはさすがにはばかられた。このため、中間取りまとめは、派閥をカネと人事から決別した政策集団に衣替えさせると宣言した。カネの面では、派閥の政治資金パーティーを禁止し、盆暮れに所属議員に配る「氷代」「もち代」も廃止するとした。政策集団の収支報告書は外部監査にかけるという。

 人事については、閣僚ら政務三役、党役員の人選について、政策集団からは働きかけをさせないこととした。

 一方、解散を決めた派閥関係者たちは、次の総裁選や衆院選などをきっかけとして再結集を目指す思惑を隠そうとしない。過去の派閥解消と復活の歴史を知るベテラン議員は「しばらくすれば、どうせまた集まるんだから」とあけすけに語る。

 ただ、派閥の存続を事実上可能にした中間取りまとめに世論は疑いの目を向けており、当面、旧派閥勢力は身動きが取れない。また近年、各派は収入の過半を政治資金パーティーに頼っており、再結集してもかつての力をふるえるかは不透明だ。

 中間取りまとめは派閥規制に力を割く一方、最大の焦点となる政治資金規正法の具体的な改正内容に触れなかった。その点を記者団に問われた岸田は「各党と議論しながら、改正の中身を決定する」と語った。

「政治とカネ」を巡る批判にさらされた自民党は、1月26日召集の通常国会で守勢に回らざるを得ない。立憲民主党などの野党や与党・公明党は早々と規正法改正の独自案をそれぞれ打ち出しており、与野党協議を経ずして自民党が押し切るのは不可能だろう。


規正法改正

 論点は多岐にわたる。まず、3派閥の会計責任者らが立件されながら安倍派幹部らは刑事責任を問われなかったことで、「規正法はザル法だ」との批判が再燃した。現行法では会計責任者との共謀を立証するハードルが高く、法律を守ろうとしない議員を立件しやすくする「連座制」が浮上している。

 ただ、こうした罰則強化には弊害も予想され、自民側からは「事務所に他党からスパイを送り込まれて、ハメられたらどうするんだ」と警戒の声も漏れる。

 デジタル化は政治資金の透明化に向けた大きなカギだ。政治資金は銀行振り込みに、収支報告書はオンライン提出を原則とすれば、監視の目が行き届きやすくなる。パーティー券収入の基準を厳格化し、収支報告書の記載義務を「1回20万円」から献金と同じ「5万円」に引き下げる案も、公明党や野党から出ている。

 政党から政治家個人が受け取り、使途を開示する義務がない「政策活動費」にも改めて注目が集まる。政党交付金のほか、企業・団体献金も党を経由して党や派閥の幹部に渡り、その力の源となってきた。公明党は「不透明な政治資金の流れの温床」(代表の山口那津男)と公開の義務づけに前向きだが、自民党だけでなく野党サイドにも「あまり明かしたくない」と渋る向きがある。

 ただし、通常国会で直ちに規正法に関する協議が始まるという雰囲気は乏しい。岸田は改正内容を党の政治刷新本部で話し合うと言明し、野党は「自民のパー券問題の全容解明が先だ」と主張する。3月までは来年度予算案の審議があるため、与野党協議の本格化は春以降に持ち越される可能性がある。だがどのみち、岸田の決断と指導力が問われる局面が必ず来る。

 能登半島地震の被災地支援も緒に就いたばかりだ。気象条件が悪く交通の難所の多い半島で、過疎集落は復旧さえままならず、住民の離散も避けられない。「政治とカネ」と並ぶ現在進行形の難題である。

 日経平均株価がバブル期を上回っても、国民生活はなお苦しく、経済再生は待ったなしの状態だ。春闘の賃上げと6月に実施される定額減税の効果が、政権への再評価につながる可能性も指摘されている。

「これまでの積み上げを形にし、国民に成果を実感していただく年とするため、総力を挙げて断固として取り組む」。岸田は1月29日の施政方針演説で示した決意を違えることなく、日本のリーダーとして死力を尽くす時だ。 (敬称略)

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