2024-01-08

【政界】「派閥とカネ」問題で問われる自浄能力 指導力の発揮が試される岸田首相

イラスト・山田紳



法改正の検討を

 岸田はこれまで「政治の責任を果たすべく具体的な課題に向けて一つひとつ結果を出す」「先送りできない課題に臆することなくしっかり判断し、結果を出していく」などと訴えてきた。

 岸田にとって、パーティー券問題が直撃した最大派閥・安倍派の影響力が弱まれば自分のやりたい政策を進めやすくなるだろう─。そんな見方も出ている。

 だが、そう簡単ではない。多くの安倍派幹部が政権の主要ポストに就いているだけでなく、パーティー券問題が派閥単位の問題で収まらず、「党の体質だ」と冷ややかな視線がそそがれるからだ。

 内閣支持率が過去最低にまで落ち込み、政権運営の「危険水域」とされる水準になっている一方で、自民党の支持率は比較的高い水準で推移してきた。それだけに、政党支持率まで急落することになれば、党総裁としての岸田の責任が問われることは必至だ。「遺憾だ」などと派閥任せの対応は許されない。

 岸田は11月に入って、憲法改正や安定的な皇位継承など自民党を支える保守層が関心を寄せる課題に率先して取り組む姿勢をアピールしてきた。

 臨時国会の答弁では、目標に掲げてきた「党総裁任期中の憲法改正実現」について、24年9月末の今任期中のことだと明言し、改憲論議を前進させる決意を打ち出した。政党支持率を意識して保守層をつなぎ留める狙いだとされる。

 とはいえ、国民の支持を追い風にしなければ、「防衛力の抜本的強化」や「次元の異なる少子化対策」といった看板政策の遂行や、「デジタル行財政改革」などの大胆な改革断行はできない。特に国民投票で過半数の賛成が必要になる憲法改正は、そこに突き進むだけの「体力」と、国民の理解を得るための「信頼」は不可欠となる。

 何度となく繰り返される「政治とカネ」の問題は、さかのぼれば自民党が下野し、「55年体制」が崩壊した1993年以前からあった。当時は選挙制度の変更や政党交付金の導入などの「平成の政治改革」につながった。

 約30年が経ち、またしても「政治とカネ」「派閥とカネ」の問題の波紋が大きく広がった。与党内からは「抜け穴の多い政治資金規正法違反の罰則の強化をすべきだ」などの声が上がる。森山も5日の記者会見で「(政治資金規正法は)国民の皆さんに理解されるものでなければならない。その視点からの議論が必要だ」と述べ、法改正の可能性に言及した。

 もっとも野党側にも危機感が募る。「自民党だけの問題ではない。政治不信の最たるものだ。政治家1人ひとりが真剣に考えないといけない」といった受け止めも広がる。


信なくば立たず

 岸田は12月7日、首相官邸で記者団にこう語った。

「総理総裁の任にあるうちは派閥を離れるのが適切な対応であると考えた。私自身が先頭に立って、政治の信頼回復に向けて努力したい」

 派閥パーティー開催を当面自粛することや、忘年会や新年会といった派閥の行事を自粛することを決めている。さらに、自身が率いる岸田派を離脱することで、中立的な立場で指導力を発揮しようと考えたようだ。

 野党側は「自民党は徹底調査し、事実を明らかにしなければならない」(立憲民主党代表の泉健太)、「首相は自民党総裁でもある。責任は極めて重大」(共産党書記局長の小池晃)などと引き続き追及する構えだ。

 だが、疑惑の徹底解明のためには、自民党との対立軸を明確に示すことができる強力な野党勢力の結束が必要となる。しかも、パーティー券問題が野党側に飛び火する可能性も否定できず、そうなれば国民の政治不信はピークに達する。

 岸田は就任以来、最大の正念場を迎えている。国民の政治不信を払拭するため強力なリーダーシップを発揮すべきときといえる。

 野党側は「自民党は徹底調査し、事実を明らかにしなければならない」(立憲民主党代表、泉健太)、「首相は自民党総裁でもある。責任は極めて重大」(共産党書記局長の小池晃)などと引き続き追及する構えだが、徹底解明のためには、自民党との対立軸を明確に示すことができる強力な野党勢力の結束が必要となる。

 与野党とも、それができなければ、政治の自浄能力が発揮されず、永田町の閉塞感はますます強まることになる。(敬称略)

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