2023-11-19

【政界】肝煎りの総合経済対策で一大論議 真価問われる岸田首相の正念場

イラスト・山田紳



過去の悪夢

 税を巡る迷走は、時に政権に大打撃を与える。1998年の橋本龍太郎政権がそうだった。

 当時の日本は不況にあえいでいた。97年4月に消費税率が3%から5%に上げられた直後、アジア通貨危機や山一証券の破綻が起きた。そこで橋本が打ち出したのが、今回の岸田と同じ「定額減税」で、98年2月から計2回、所得税と住民税の定額減税を実施した。納税者1人あたり5万5000円、扶養者はその半額で、総額4兆円規模だった。

 それでも景気回復の兆しが見えず、橋本は参院選真っ最中の7月3日、記者会見で「恒久的な税制改革」に意欲を示した。恒久減税の実現を明言したと受け止められ、期待値が高まった。

 ところが、橋本は5日のテレビ番組で「恒久減税という言葉は使っていない」と否定したかと思えば、8日の記者会見で「99年からの所得税の恒久減税」に言及。12日投開票の参院選で自民党は改選61議席を下回る44議席と惨敗し、橋本は退陣に追い込まれた。

 政府高官は「今回は税収増の還元であり、深刻な不況だった橋本政権とは状況が全く異なる」と、25年前との違いを強調する。とはいえ、岸田の迷走ぶりは橋本と重なるところがある。


解散時期も迷走

 岸田は衆院解散を巡っても迷走を続ける。6月の通常国会閉会直前、岸田は「今国会中の解散は考えていない」と明言した。首相があえて打ち消さなければならないほど「解散風」が吹いたわけだが、岸田周辺は「選択肢として解散を検討していたことは間違いない」と証言する。

 次の解散風は9月に吹いた。内閣改造・自民党役員人事の時期がなかなか決まらなかった。岸田が解散のタイミングを絡めて熟考していた、と岸田周辺は語る。だが岸田は改造後、解散について「今は考えていない」と打ち消した。岸田本人が表では1回も明言していないにもかかわらず、岸田は解散風を吹かす「オオカミ少年」と受け止められつつある。

 衆院議員の任期は10月30日で4年の任期の折り返しである2年を過ぎた。文字通り常在戦場の時期に入ったことになり、次の焦点は「追い込まれつつある岸田」がいつ解散に踏み込むか、だ。年内の解散は補正予算の成立が11月下旬の見込みであることなどを考慮すると、かなり窮屈となる。来年1月召集の通常国会冒頭の解散という選択肢もあるが、2024年度予算の成立時期に影響を及ぼす。つなぎ予算でしのいだとしても、1~2月の選挙で経済対策の基本である本予算の成立が4月以降にずれ込めば、岸田の経済対策の本気度に疑問符がつきかねない。

 次のタイミングは、順調に来年3月中に24年度予算が成立し、定額減税のための関連法も成立するであろう4月以降となる。6月に実施される定額減税を材料に選挙で信を問うことはあり得る。この時期は同年9月に岸田の自民党総裁の任期満了を迎える直前ともなる。

 いま以上に「岸田で選挙が戦えるのか」がクローズアップされる可能性があり、衆院選前に「岸田おろし」が加速しかねない。

 自民党幹事長の茂木敏充は今年10月発売の月刊誌で「『私も出る』となれば、今度は『令和の明智光秀』になってしまう」と語り、岸田が総裁選再選を目指して出馬する場合、自身は立候補しない考えを示した。

 前回総裁選で岸田に敗れたデジタル相の河野太郎は相変わらず党内の人望が高まらず、経済安全保障担当相の高市早苗は、後見人だった元首相の安倍晋三が凶弾に倒れたことで出馬に必要な推薦人20人の確保さえ危うい。岸田派の座長である林芳正が岸田を追い落として立候補することも考えにくい。

「ポスト岸田」の低迷を利用し、解散がないまま岸田が総裁選を無風で勝ち上がり、その勢いで解散を断行するシナリオも浮かぶが、そんな「バラ色の未来」が訪れる保証は何もない。むしろ追い込まれた岸田が解散の時機を逸し、内閣支持率がじり貧になっていく方が現実味がある。岸田が最後の砦としているのが来年の春闘だ。今年の春闘は大手企業の賃上げ率が3.99%となり、約30年ぶりの高水準となった。最低賃金も今年初めて1000円を突破した。

 連合への接近を強める岸田は来年の春闘でさらなる賃上げを実現させたい考えで、「減税でデフレ脱却を確実にし、来年さらに賃上げが実現すれば雰囲気も変わってくる」と周囲に語るが、果たして岸田の目算通りに進むかは見通せていない。

(敬称略)

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