2023-09-21

《日本最大の発電会社》JERA・奥田久栄が目指す「CO2を排出しない発電所づくりを!」

奥田久栄・JERA社長

2030年代には燃料の50%以上をアンモニアに



 愛知県沿岸部の碧南市で、JERAが世界初の実証試験を行おうとしている。CO2(二酸化炭素)を排出しない火力発電所をつくるというもので、世界中のエネルギー業界関係者から多くの視線を集めている─。

 JERAの碧南火力発電所は、総出力410万キロワットをほこる日本最大の石炭火力発電所。ここで、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを燃料の一部として利用する技術の確立を目指している。現在はボイラーの中にあるバーナーの改造などを行っているところ。当初計画を1年前倒しし、来年3月にまずはアンモニアを20%転換させる試験を行う予定だ。

「まずは世界初の取り組みとして、石炭を20%減らして、その20%をアンモニアに切り換えていく。今のところ、まず間違いなく成功すると思っていて、これが成功できれば他の発電所にも展開していくことができるし、当社だけでなく、世界にとっても、大きなターニングポイントになると考えている」

 こう語るのは、JERA社長CEO(最高経営責任者)兼COO(最高執行責任者)の奥田久栄氏。

 東京電力と中部電力が折半出資する国内最大の火力発電会社・JERA。国内の火力発電所は建設中を含めて26カ所。合計発電容量は約6600万キロワットと、日本全体の電力量の約3割を占める最大の発電会社だ。

 現在、日本全体の電源構成のうち、7割強を占める火力発電所。安定して燃料を調達でき、太陽光などの再生可能エネルギーのような不安定さもなく、CO2を排出してしまう欠点はあるが、日本において貴重なエネルギーとなっている。

 しかし、昨今の脱炭素化の流れによって、一気に火力発電所は〝悪者扱い〟。欧米諸国からは早期廃止を求める声が相次ぐ。

 そうした中、石炭火力でアンモニアを利用することでCO2排出量を減らし、電力の安定供給と脱炭素の両立を果たそうとしているのがJERA。

 同社がアンモニアに賭ける理由は「ボイラーやタービンなど、主要機器の改造範囲が少なく、既存の技術や設備を生かせることが大きい」(奥田氏)。

 まずは来年3月に石炭火力でアンモニアを20%利用する試験に着手。成功すれば専用のタンクなどを設置して、2027年頃には絶えずアンモニアを20%利用させる状態に持っていく。そして、2030年代には50%以上のアンモニア利用を実現させる計画だ。

「今、海外から(CO2を排出しない)ゼロエミッション火力に若干批判があったりするのは、まだ技術開発ができていないから。しかし、実際に技術を確立できたらものすごいインパクトになると思うし、並行して50%以上の利用に向けたバーナーの開発も行っているので、2027年頃に絶えず、20%のアンモニアが燃えている状態になれば、大きく世界のトレンドは変わると思う」(奥田氏)

 もっとも、これにはまだ不確定要素も多い。同社によると、100万キロワットの石炭火力発電所1基に20%のアンモニアを燃焼させるだけで、年間50万トンのアンモニアが必要になる。現在、日本国内で消費しているアンモニアは100万トン。仮に発電所2基にアンモニアを20%利用しようと考えたら、それだけの量を調達・確保しなければならない。

 JERAは米アンモニア製造会社のCFインダストリーズ社やノルウェー・ヤラ社と協議を進めているが、調達ルートの確保を含めて、今後もアンモニアの製造や輸送方法などのサプライチェーン(供給網)をいかに構築していくかは大きな課題。

 そして、その先にあるのが水素の利用。究極のクリーンエネルギーと言われる水素だが、水素はアンモニア以上にまだまだ製造方法も運搬方法も確立されていない。この6月、JERAは米ニュージャージー州にある火力発電所で水素利用に向けたガスタービンの改造工事を完了。最大40%の水素利用が可能な設備で、すでに水素を燃やし始めている。

「水素も燃やすだけなら問題はないが、運んだり、日本で大量につくる方法が大きなネックで、まだまだ課題はある。ボイラー型の石炭火力には比較的低い温度で燃えるアンモニアを、ガスタービン型のLNG火力には高い温度で燃える水素を使っていく。相性がいいものを使っていくということで、基本的には今の火力発電設備を生かしながら、クリーンな燃料に置き換えていく」(奥田氏)

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