2023-09-26

加賀電子会長・塚本勲「お客様から頼まれたら自ら考え動く。そういう人が成長します」

塚本勲・加賀電子会長

「会社はみんなの物」そして「人が財産」─。加賀電子会長・塚本勲氏は1968年(昭和43年)の会社設立以来55年、この想いで社業を成し、発展させてきた。自らの足跡に触れながら「学歴より学問。社会に出てから勉強し、自分自身を磨き上げる」と語る。塚本氏は「社員の成長なくして企業の存続なし」と強調。創業から55年間で、売上高6080億円(2023年3月期)、連結従業員8000人超のエレクトロニクス商社を作り上げた。


お客様のためにまずは動く!

 ─ 加賀電子はコロナ禍でもずっと増収増益でしたね。

 塚本 ここ3年はそうです。

 前期(2023年3月期、連結)は売上高6080億円、経常利益で327億円と過去最高を更新しました。それも社員に臨時ボーナスを出した後ですからね。当然、株主にも還元し、配当は前期120円から220円に増配しました。

 今期(24年3月期)は多少売り上げがダウンする可能性もありますが、われわれはダウンしないように、一生懸命新しい仕事を仕込んでいるところです。

 ─ その新しい仕事というのは、どういったものですか。

 塚本 EV(電気自動車)関連や半導体分野がメインです。

 ─ 前期は特に半導体不足が叫ばれましたが、専門商社としてはどう動いたのですか。

 塚本 当社は、特別なものを扱っているのではなくて、お客様から依頼を受けたら、品薄が続く状況でも必ず用意できるように動きます。

 当時は1億~2億円する機械が、たった1個の半導体が足りないために生産できないことが起こり得ました。例えば、CT(コンピューター断層撮影)スキャンを作っているアメリカの会社が、半導体が1個足りないために生産できないということが起きて、当社に相談がありました。そこで、われわれは世界中のネットワークを使って情報を共有し、頼まれたものは9割方集めました。

 ─ 世界中にネットワークを築いてきた強みですね。

 塚本 中には普段の相場の数十倍もするような値段で売っている商品もあるのですが、お客様にしてみれば、その1個の半導体が足りないがために販売することができないわけです。

 だからと言って、当社はここで大儲けしようとは考えません。商品を見つけたら、まずお客様に「どこの国にいくらで売っています」と報告します。その結果、お客様がそれを買う、買わないは別の話で、お客様に頼まれたらまずは動く、ということを徹底しています。

 ─ 常に顧客の立場に立って考えると。

 塚本 はい。当社としても、見つけてきた商品があまりにも高い価格だと、「300個は確保できますが、まずは必要な分の5~10個くらいでいいのではないでしょうか?」と提案すると「それでも、まだ見通しが立たない状況だから全部買うよ」ということになるわけです。

 かといって、新しい調達先の中には、届いてみたら中身が違う商品になっていた、ということも起こり得ます。それではお客様に迷惑がかかってしまいますので、まともな商品をきちんとお納めできるように、当社では事前に品質検査をする体制を組んでいます。

 創業以来一貫して、秋葉原という地の利を生かして、お客様がご要望されるものは何でも集めてお届けする。これが当社の原点であり、社員が守ってくれている。社員たちは本当によく動いてくれていると思います。

 前期の最高益は社員が頑張ってくれた結果です。ですから、社員にも還元するし、株主にもきちんと還元すると。

 わたしも多少の役員賞与はいただきますが(笑)、1968年の創業以来、頑張ってきた社員に報いるという姿勢でずっと経営してきました。


敗者復活ありの社風でチャレンジ続く

 ─ 塚本さんが大切にされている加賀電子の文化は創業から変わらないですね。

 塚本 創業から続いてきた会社の文化をわれわれは〝加賀イズム〟と言っているのですが、わたしはとにかく経営の基本は、加賀イズムが浸透しているかどうかが一番重要なことであり、こうした中で、人が育つのだと考えています。

 ─ では、加賀イズムとは何なのか?加賀電子の文化とはどんなものですか。

 塚本 例えば、当社は創業以来、「ガラス張り経営」や「何でも屋」を貫いてきました。

 会社というのは、皆が稼ぎに来ている場所ですから、利益が出たら皆に還元する。これは当たり前の話です。それを徹底して初めて社員のやる気につながるのだと思います。他にも、ユニークなところで言えば、「社員の提案にはNoと言わない」というのがあります。

 わたしは社員がいろいろなビジネスをやりたい、こういうイメージのサービスをやりたいと言ってきた時に「NO」と言ったことはありません。基本的に全部「OK」なのですが、会社の設立から人集め、資金繰りなど、全部自分でやらないといけない。責任を持たなければいけませんから、社員も大変です。

 ─ 成功する確率はどれくらいですか。

 塚本 意外といってはなんですが、成功する確率が高く、6~7割の確率で成功しています。

 もちろん、失敗することもありますよ。しかし、当社は敗者復活が有りです。半年経ったら、また元通り好きなことをやれるよと。それを糧に人間が成長して、次の仕込みができるように成長してくれればいいんです。やはり、当社は人が財産ですから。

 そして、お客様から頼まれたことは何でもやろうということで、今は何屋か分からないぐらい様々な仕込みをしています。

 ─ 最近はスポーツ関連の事業も力を入れていますね。

 塚本 はい。例えば、人の骨格は10歳までに決まるというデータが出ているようなので、そういうことにお役に立つサービスを考えています。

 あとは、フィットネス業界各社とタイアップして、秋葉原の本社内に社員の福利厚生用のスポーツ設備を設置しました。機材から自動でデータを採れるトレーニングマシーンがあって、例えば、2~3カ月経ってデータを測って、体脂肪の比率が変わっているかどうか。そこで効果があればポイント制にして、金一封出すとか、賞品を出そうかと話しているところです。

 ─ 面白いですね。そのシステムごと売れますね。

 塚本 そうなんですよ。おかげさまで今、学校関係で5件ぐらい決まりそうです。

 わたしはこれをお客様が来る度にお見せしていたら、米国の大手企業にはそういう施設が入っているとお聞きしました。世界では社員の健康維持を考えた〝健康経営〟が注目されていますし、日本の大手企業もそういう試みが増えていますね。

 ─ なるほど。常に時代の変化を先取りして、次から次に事業を作っていますね。

 塚本 世の中の変化にどうやってついていくか。変化についていけなければ、あっという間に会社はおかしくなります。

 これはどんな事業や業界でも同じだと思いますから、常に勉強です。


継承すべきは加賀イズム

 ─ 次は〝人への投資〟という観点でお聞きしますが、最近は終身雇用という考え方が弱くなり、転職組も増えてきました。これからの時代の雇用をどう考えていますか。

 塚本 当社は離職者は少ないのではないかと思います。転職の時代というのは、こればっかりは仕方がないですよね。そういった意味では、年収面を含めた魅力ある企業であり続けなければいけないと考えています。

 わたしは基本的に、「会社は皆のもの」という考えです。社員一人ひとりが成長してこそ利益が出るし、会社が利益を上げられなければ、それに対して、社員全員が自分自身を戒め、鍛えていくべきであると。そういう加賀イズムに慣れた人たちがいかに育っていくかによって、当社が今後も残ることができるか、それとも残らないか、という分かれ道になるのだと思います。

 ─ 今、塚本さんが社員に言っていることはどんなことですか。

 塚本 わたしももう80歳になりますから、いつまでも経営に携わることはできません。そうなった時を見据えて、何を残さなければならないのかを考えたら、やはり加賀イズムです。

 大切なことは守っていかなければならないので、社員には「加賀イズムに則った行動が会社の発展につながらなければいけないよね」と言っています。

 ─ 塚本さんは文字通り、ゼロから出発して、ここまで会社を発展させてきました。ここまで会社を成長させることができた理由は何だと考えますか。

 塚本 社員の成長なくして企業の存続などあり得ないわけですから、それが一番です。

 やはり、自分一人の能力なんて限界があります。創業者だからといって、俺が、俺がと独りよがりでいたのでは、企業は伸びません。皆で手分けして、価値観を合わせて、皆で成長していかなければいけないという考えが根本にあります。

 ─ 塚本さんが創業以来、人を大事にするという経営の原点はそこにあるわけですね。

 塚本 ええ。自分自身のことで言えば、わたしは学歴より学問で、社会に出てから勉強して自分自身を磨き上げて成長していく以外にありませんでした。

 なぜなら、わたしは高校の途中で自ら学校を辞めたわけですよ(笑)。だから、学歴より学問が大事だと思っていて、社会に出てから、どうやって勉強するかが大事だと思っています。

 学歴もお金もない自分が会社を立ち上げて、何とか評価されるようになってきたのは、本当に周囲の皆様のおかげだと思っています。


伸びる人材とは?

 ─ 塚本さんから見て、伸びる人材とはどんな人ですか。

 塚本 行動力のある人です。上から指示されたことをこなすだけでなく、まずは自分で動いてみる。お客様から頼まれたら自分で考えて動いてみる、という性格の人が成長しますよね。そうすると、その人の成績も上がっていくから、部下も信頼するようになります。

 逆に上司からの指示をただこなすだけでは、失敗した時に人は言い訳をするんです。でも、仕事は言い訳が増えたら面白くなくなります。だから、当社では言い訳はしなくていいよと。

 上司からやらされるのではなく、自分で考えて動こうと。だから、何に挑戦するのもOK。

 これがうちの社風です。

 ─ そういうことを、塚本さんはずっと言い続けてきたわけですね。

 塚本 あとは、わたしもこれまで様々な業種の人とお付き合いをさせていただき、人間関係のような無形の財産を大切にできる人が強いと言っています。

 ─ 無形の財産?

 塚本 ええ。わたしが会社を立ち上げた時にはお金も何もない、ゼロからの出発でした。

 サラリーマン時代、わたしの給料袋にはいつも赤紙が入っていました。会社が接待費を出してくれないので、営業でお客様と飲みに行く時も全部会社から借りていました。だから、今月はマイナス3万円ということもあって、生活できなくて困りましたね(笑)。

 そのような中でもいろいろな人とのお付き合いを重ねることによって、人の縁や知識を積み上げていくことができ、そういう無形の財産を作ることができました。

 今があるのはその結果です。

 ─ 人が人を呼ぶというか、人と人のつながり、人脈をつくるのは、まずこちらが努力していくことが大事だと。元来塚本さん自身も人に好かれるタイプですよね。

 塚本 いや、そんなことはないです。この顔ですから(笑)。

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