2023-09-09

久保利弁護士の「わたしの一冊」『続・会社法の基本問題』

『続・会社法の基本問題』 江頭 憲治郎 著 有斐閣 定価6600円(税込)

ガバナンスは「守り」 企業価値向上は雇用慣行の超克から


 本書は『会社法の基本問題』(2011年刊行)の続編で、その後の10年間に執筆された著者の論文等を収録している。

 第一のテーマは多様な日本の上場会社におけるコーポレート・ガバナンス(経営者に対する規律付けの仕組み)と日本の上場会社の組織の特徴の分析である。第二はM&A(企業買収)に関わる。上場会社の株価形成や買収プレミアムに関するテーマが含まれる。第三は非公開会社法制である。

 私には「政府を含む世界中のビジネス関係者の関心の高まりに関係する」第一のテーマが特に興味深い。

 この10年以上、日本ではコーポレート・ガバナンスが経済産業省や金融庁の主導で進められた。「企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る」という経済官庁の旗振りや、政治家の「攻めと守りのガバナンス」の連呼に私は違和感を覚えた。メディアが多用する「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」という決まり文句も、取締役がガバーンすべき対象は「企業」ではなく「社長」ではないかと思えた。

 会社法の泰斗たる著者は、2006年に「日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム」が策定した「新コーポレート・ガバナンス原則」の「会社役員がその受託責任を全うすることを確保するための仕組み」が米国の原義にもっとも近いと評価する(本書137頁)。

 その上で、著者は、「コーポレート・ガバナンスの手法」は(株主を)「裏切りかねない経営者を監督するための守りの手法」であり、「攻めのガバナンスは概念矛盾に近い」とまで批判する(本書155頁)。

 著者は「会社の持続的な成長」とは、「ガバナンスの良否によるのではなく、経営者の能力いかんによる」(本書174頁)と喝破する。本書は、世界にも希な正体不明なガバナンスと訣別し、日本企業が攻めの戦略と株主と企業を守る経営を実現するための必読書である。

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