2023-09-02

ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長・長尾裕「自前主義にこだわらず、協力会社とともに、持続可能な物流の実現を!」

長尾裕・ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長



定義が明確ではない「信書」

 ─ 過去には信書を巡る争いもありました。

 長尾 信書に関しては、日本郵政と争った認識はありません。公平・公正な競争(イコールフッティング)を求めて、総務省の情報通信審議会郵政政策部会に問題提起しました。

 日本の信書は、郵便法で「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」と定義されていますが、諸外国ではそういった法律はありません。荷物の中に入っている書類の性質によって信書かどうかが決まるということは、中身を開かなければ分からないということになります。

 ─ その線引きが明確ではなかったのですね。

 長尾 よく例として出るのが「履歴書」です。就職を希望して企業に向けて応募する履歴書は信書になりますが、選考が終わって返却される履歴書は信書ではありません。

 我々のような事業者でも分かりづらいのに、消費者の方々が分かるはずがありません。しかも、誤って信書の送達を委託した消費者の方も罪に問われる可能性があります。

 当社として重要なことは、公平・公正な競争かどうかという点です。公平・公正な競争がお客様にとって、さらに便利なサービスを生み出し、経済全体のプラスになると信じています。その思いは今後も変わりません。決して日本郵政といがみ合っていたわけではありません。


高齢者の見守りや御用聞き

 ─ 荷物を運ぶということが本業になるわけですが、医療介護といった異なる領域で、ヤマトのネットワークを活用する取り組みはあるのですか。

 長尾 実は我々も、21年からIoT電球を活用した「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」を始めています。電球のオン・オフの情報で一人暮らしの高齢者の方などの安否を遠方に住む家族などが確認できるようになっています。  分かりやすく言うと、トイレであれば1日1回は使用すると思います。その電球を当社指定のデータを発信できるSIM付きの「ハローライト電球」に替えていただくだけで、24時間のうち1回もトイレの電気がつかなければ、ご家族など事前に登録した通知先にメールで通知が入るようになっています。

 ─ ヤマトのスタッフが安否確認をすると。

 長尾 ご家族などから依頼があれば代理で訪問します。

 この他に、地域社会の健全で持続的な発展、そしてそこに暮らす人々のより安心・快適な生活の実現を目指して「ネコサポステーション」という店舗を出しています。東京の多摩ニュータウンを皮切りに、松戸や藤沢、仙台、福山などでも展開しています。ここでは宅急便の発送はもちろん、家事代行やその地域の困りごとを解決するサービスメニューを揃えています。

 住民の方々から「こんなことをやってもらえないか」というご要望を聞き取り、できる範囲のことは一緒にお手伝いさせていただいたり、地域の方々に集まっていただけるようなイベントを開催したりしています。ご自宅から外に出て、コミュニケーションをとっていただけるような仕掛けです。

 ─ 地域の御用聞きのような存在と言えますね。

 長尾 まだなかなか事業としては成り立っていませんが、何もしないよりは、まずは始めてみることが大事だと考えています。始めてみると、いろいろな情報が集まってきて、「こんなことをやってもらえないか」「あんなことはどうだろうか」といったお話が出てきます。実際、自治体からも相談をいただき、現在、ネコサポステーションは全国に8店舗展開しています。

 ─ 現場のニーズを吸い上げ、ソリューションをつくることにつながると。

 長尾 まずは我々からいろいろな情報を聞いてニーズを汲み出していこうとしています。何をしなければならないかは、現場に出てみないと分かりません。ニーズが見えてくれば、もう少ししっかりしたビジネスになってくるのではないかと思います。


従来とは違う協力会社との関係

 ─ さて、物流業界の大きな課題である人手不足には、どういう対応をしていきますか。

 長尾 おそらく特効薬はありません。しかし、拠点の在り方や仕事のやり方をどう変えていくかを考え、部分的には機械化できる領域があれば機械化していきます。地道な取り組みを着実にこなしていくしかありません。我々が取り扱う年間23億個超の荷物を安定的に運ぶために、まずはオペレーションの効率化を図っていきたいと思っています。

 これからは自前主義にこだわらず、協力会社の皆さんにもっとお任せする範囲を広げてもよいのではないかと思っています。そういう協力会社との関係性ももっと見直していきたいと考えています。物流の一部分をお願いするだけでなく、もっと我々の宅急便をはじめとしたネットワークを使って、一緒にビジネスに参画してくれませんかというお付き合いに変えていこうとしています。

 取り組みの例として福岡では協力会社の中で、ある1社に主幹事になっていただいて、その会社にターミナル運営をお任せしています。そこから全国に向けて発送する荷物の輸送コントロールも含め、彼らにお任せするような関係をテストで始めています。

 ─ 大企業と中小企業との連携とも言えますね。

 長尾 彼らにとっては配送業務の一部を受託できるという面もありますが、単にそれだけでなく、今後、我々のビジネスと彼らの本業を組み合わせて新しいビジネスを生むことができる可能性があります。それは従来とは違う連携の方法です。そうやってウィン・ウィンの関係をつくりたいと考えています。

 我々の強みがあるからといって、上から目線でいるような時代ではありません。一緒にビジネスをつくっていける仲間がいるかどうかが重要になってきます。

 現場のセールスドライバーをはじめ、当社には様々な仕事を経験している社員が多くいます。その意味ではダイバーシティであり、昔から多様な経験を持った社員たちがビジネスをつくってきました。

 近年は外部からのプロフェッショナル採用も増えていて、ヤマトの理念に共感いただきビジネスを共に考えてくれています。多様な人と一緒にビジネスをつくっていくことこそ、当社の強みだと思っています。

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