2023-09-02

ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長・長尾裕「自前主義にこだわらず、協力会社とともに、持続可能な物流の実現を!」

長尾裕・ヤマトホールディングス社長兼ヤマト運輸社長

物流業界ではトラックドライバーの労働環境の改善を見据えた2024年問題が迫る。「多様な人や企業と一緒にビジネスをつくっていけることが当社の強みだ」─。長尾氏は投函商品「クロネコDM便」などの配達で日本郵政との提携を決断。「宅急便」を展開するヤマト運輸はサプライチェーンの「End to End」に対する提供価値の拡大に向けて「法人ビジネス領域の拡大」とEC物流ネットワークの構築や集配拠点の見直しなどに取り組む。その中で力を入れるのが協力会社との新たな関係づくり。人々の生活を支える物流ネットワークをどう維持・発展させていくのか。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社執行役 副CSIO パートナー・伊東真史「社会課題の解決には産業構造の壁を乗り越えなければならない。〝社会実装部隊〟としてこれを支援していきたい」

社会の変化に合わせて構造を改革

 ─ ヤマトホールディングス社長就任から3年を経て、これまでの改革に対する手応えをどのように感じていますか。

 長尾 2020年1月に、次の100年の成長を見据えた経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」という中長期のグランドデザインを発表しました。事業会社7社をヤマト運輸に結集し、21年4月から新たなヤマト運輸としてスタートしています。

 グループ経営構造改革は、この2年間で一定の実績を積むことができたと思います。宅急便は1976年に発売し、すでに47年が経過しました。当初は、個人のお客様から個人のお客様へ送るサービスとして多くの方にご利用いただき、成長を続けてきました。22年度の小口貨物取扱実績は23億個を超えています。

 現在は、個人のお客様から発送される荷物は1割で、残り9割は法人のお客様から発送される荷物です。そのため、宅急便だけでなく、法人のお客様のサプライチェーンの上流から下流まで「End to End」で価値提供するために、トータルな提案力の強化を進めています。

 さらに、事業の変化に合わせてネットワーク・オペレーション構造改革を進め、営業とオペレーションが一体となった事業構造改革を推進しています。

 ─ 4月には基本運賃の改定もしていますが、顧客の反応は?

 長尾 宅急便などの届出運賃等の改定は、当社グループおよび輸配送パートナーを取り巻く環境が急激に変化しており、外部環境の変化に伴う影響を適時適切(毎年度)に運賃などに反映させることを目的としています。今後は年度ごとに見直し、プライシングの適正化に向けた持続的な取り組みを進めます。

 社員や物流パートナーの労働環境の改善に繋げながら、輸配送ネットワークの維持・強化を図ることで、物流業界の持続的な成長と、お客様により良いサービスを提供し続ける環境構築に努めていきます。


お互いの得意分野を生かして

 ─ 長い間、ライバルだった日本郵政と提携したわけですが、その決断に至ったのは?

 長尾 経営をする上で一番優先すべきことは、経営資源をいかに有効に使うかということです。

 最大A4サイズ程度のカタログなどを運ぶ「クロネコDM便」と小型薄型荷物「ネコポス」の売上高は約1300億円です。我々の一番のコアとなる事業は、2㌧トラックのネットワークを活用して箱物をどう運ぶかというところにあります。これから先、長い視点で見てみると、その一番のコア事業に経営資源を集中すべきだと考え、今回の提携に至りました。

 ─ 人手不足など物流業界共通の課題がある中で、互いにリソースを有効活用しようという提携だったとも言えますね。

 長尾 日本郵便の二輪のネットワークは彼らの一番の強みです。いろいろな領域で相互に協力できる部分が出てくると考えています。今回の提携では、最初は我々の投函商品の配送を日本郵便にお願いする形になりますが、今後、逆に日本郵便のサービスで我々が輸送した方が良い荷物もあると思います。特に冷蔵・冷凍荷物の輸送などは協力できる分野かと思います。

 ─ それぞれの強みがある。

 長尾 いろいろな部分でコミュニケーションや協議を行いながら、世の中に対して、どれだけよいサービスを持続的にご提供していくかが大事だと思います。

 ─ 地方における配送網の維持なども共通の課題ですね。

 長尾 どんな協業ができるのか、どんどん協議していきたいと思います。我々もユニバーサルサービスの側面を持つ事業者です。「過疎地だから事業をやりません」ということはありません。

 我々は荷物が少ない地域であっても、ネットワークをつくり、お客様に全国一律でサービスを提供してきました。それは今後も変わりません。過疎地での物流のネットワークをどう維持していくかというところは、日本郵便や他の事業者も同じ思いだと思います。お互いに協力し、地域によりよいサービスを提供していきたいと考えています。

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