2023-05-20

【わたしの一冊】『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』

『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』 山崎 良兵 著 日経BP 定価2640円(税込)

第一線経営者への頂門の一針たる一冊




 この本を稀代の3大富豪の愛読書のダイジェスト版として読むのでは身も蓋もない。

 本書は大金持ちになるためのガイドブックではない。テスラ、アマゾンやマイクロソフトの創業者をモデルとした「読書によって作られた『天才富豪』の本質」の分析である。取り上げられているのは、米国の代表的企業家の教養の根源となった書籍である。

 日本語訳のある歴史、経済、SFなど彼らの愛読書がダイジェストされている。「ローマ帝国衰亡史」から「資本論」、「孫子」まで彼らの幅広い視野に驚かされる。マスクが強く推すデューラントの「文明の物語」は邦訳がないために本書では取り上げられていない。これは日本の出版界と国民の教養レベルを示すもので、誠に残念なことである。

 刑務所に収監されたわけでもない多忙の中を、永年にわたり、意識的に1年に2回「シンクウィーク(think week)」を設けて大量の本を1週間かけて読みあさるビル・ゲイツの逸話は刺激的である。

「幅広い読書による教養のアップデート」こそ、天才起業家達の秘訣かもしれない。かつて、日本でも米国の「リーダーズダイジェスト」という新刊書や雑誌記事を要約した日本版が発売されていたが、30年近く前に廃刊された。今でも、同誌は世界100カ国版が52言語で発行されているというのに。

 さらには本書では数多くのSFが取り上げられている。筆者はアイン・ランドの「肩をすくめるアトラス」が起業家ばかりではなく、トランプ政権の幹部に支持される政治小説としても読まれてきたという。SFは明日の世界の預言なのかもしれない。

 我が国では、漫画本やアニメ本、老人向けハウツーものばかりがベストセラーを占めている。わが国で本が売れないと言われて久しいが、人類史や哲学書の読者たるべき第一線経営者への頂門の一針たる一冊と言えよう。

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