2023-02-13

BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の提言「異次元の少子化対策は『男性社員の育休取得の義務化』」

このまま低い出生率が続けば、いずれ日本人がこの世から消滅する。コロナ禍でも出生率の低下が加速した。危急存亡の秋を迎えているのに、なぜ悠長に構えているのか。

【あわせて読みたい】ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次氏の視点「政府・日銀の共同声明、10年前の約束が変わるのか?」

 傾聴に値する論考がある。日本を長く分析してきたメアリー・ブリントンという著名な米国の社会学者が、近著『縛られる日本人』で、日本の少子化の対応策を探った。

 今や多くの先進国では、女性の就業率が高まると、出生率は上昇する。過去40年間で、ジェンダー平等が進展したためだ。女性の就業率が高まると、出生率が未だに低下する日本と韓国は例外である。

 実は、先進国で男性の育休制度が最も充実しているのは、日本だ。しかし、キャリア形成に響くことを恐れ、利用しない男性が多数派である。数日はともあれ、1カ月を超える長期の育児休暇を男性社員が取ることができる社風の企業は稀だ。法律上は取得可能だが、私たちは皆、男性が長期の育児休暇を取得しないことが今も「普通」と考える。男性は稼ぎ手、女性は育児という強固な社会規範に日本は縛られたままである。

 米国には、女性に対してすら、公的な育休制度は存在せず、公共の保育制度も存在しない。上司との交渉で、強い立場にあれば、有給での育児休暇が取得可能だが、全ての人が恵まれた環境で働いているわけではない。それでも、夫婦が協力し、親・兄弟・姉妹や友人の助けも借りて対応する。スウェーデンでは、夫婦が共に育休や時短を利用するが、優れた制度が存在する前に、働く役割や子育てについて、男女が同等だ。日本が学ぶべきヒントがある。

 1986年の男女雇用機会均等法の施行以降、働き方に関して言えば、日本でもジェンダー平等が大きく進んだが、それは、常に女性が男性の働き方に近づく形での進展だった。男性の働き方は変わっていない。多くの妻は、苛烈な有償労働の後に、家事、育児などの無償労働を1人でこなす。これでは、中々、2人目の出産とはならないはずだ。

 女性の時短や育休の制度充実は極めて有用であり、その恩恵を受ける人は少なくない。ただ、それは、「稼ぎ手は男性、育児をするのは女性」という男女の役割を固定化する両刃の剣でもある。必要なのは男性を女性の働き方に近づけるジェンダー平等だ。ブリントン氏は、「過激な案」と断った上で、少なくとも4週間の男性の育休取得の義務化を提案する。手を挙げれば出世に響くが、義務ならばスティグマは回避できる。

 良い案だが、世界で最も充実した男性の育休制度が法的に既に整っているのだから利用しない手はない。例えば岸田文雄首相が財界人に個々の企業が男性社員の4週間の育休義務化を社内ルールとして採用するよう強く働きかけてはどうか。追加の財源は不要で、これこそ異次元の少子化対策となる。ジェンダー平等な企業に、若く優秀な人材が集まるのは想像に難くない。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事