2022-05-25

コロナ後をにらんでの都市づくり【森ビル・辻慎吾】オフィスの使命は変わらない論

森ビル社長 辻 慎吾

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都心で緑に包まれる生き方・働き方を!

〝魅力ある都市〟とは何か?

 人の生活には、職・住の他に、〝学〟や〝食〟、〝憩〟などいろいろな要素がある。都市づくりも進化し、森ビルが現在進めている『虎ノ門・麻布台プロジェクト』は〝住む・働く・学ぶ・遊ぶ・憩う〟など多様な都市機能が徒歩圏内に集約された『立体緑園都市』を目指す。

『虎ノ門・麻布台』の計画区域は約 8.1㌶で、現在も開発進行中の虎ノ門ヒルズ(7.5㌶)よりも広い(ちなみに六本木ヒルズは約11㌶)。この中に、圧倒的な緑に囲まれた中央広場(約6000平方㍍)を含む緑化面積は約2.4㌶に及ぶ。

『緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街』づくりということで、辻氏は「モダン・アーバン・ビレッジ(Modern Urban Village)というコンセプトでグリーン・アンド・ウェルネスを大事にしています」と語る。
 都心の既成市街地で、これだけ大規模な緑化空間を創出するには、細分化された土地を取りまとめて、大きな敷地を生み出す必要がある。そうして生み出した大きな敷地に超高層建築を建てることで、足元に大きなオープンスペース(用地)を創出する。これが、同社が得意とする『立体緑園都市』(ヴァーティカル・ガーデンシティ)の基本概念である。

 コロナ前の2019年夏に着工し、今も建設が着々と進む。グリーン(Green、環境)とウェルネス(Wellness、健康・幸福)を追求し、〝グリーン〟でいえば、ここで供給される電気は100%再生可能エネルギーにするといった方法を取っている。〝ウェルネス〟では、慶應義塾大学病院と提携し、『慶應義塾大学病院予防医療センター』が東京都新宿区から、『虎ノ門・麻布台プロジェクト』に拡張移転する。

「予防医療とか、それに関する共同研究講座も一緒にやっていきます。未来の健康を守るみたいな形でウェルネスを追求していきたい」と辻氏は語る。

『ヒルズ』という街には、住む人がいて、また、遊びに来る人がいて、外国人もいる─ということで、医学的にもいろいろ貴重なデータを取ることができる。それらのデータを活用して、「ヘルスケア(予防医療)の拠点にもしていきたい」という辻氏の考えである。

 モダン・アーバン・ビレッジ─。都心にモダンなビレッジ(村)を創るということだが、その基本的な考えとして、「緑の中にビルがあるのと、ビルの間に緑があるというのでは全く発想が違います」と辻氏。

 前述したように、着工は2019年夏のことで、そうした考えをコロナ危機前に打ち立てていたということ。
「木の種類も一本一本決めています。ここには桜を、あるいは楓(かえで)を植えようとか、ミカンなどの果樹を植えようとかね。果樹園でもあります」
 樹木の種類は低木・高木合わせて約180種類にのぼる。地被植物(地表面を覆って地肌を隠すために植栽する植物)を含めると約310種類にも及ぶ。

「それこそ、いろいろな木を選んで持ってきます。実際に、当社の担当が山に木を見に行ったりして、選んでいます」
 桜の木も、早いものは植えた年から花を咲かせる木もあれば、20年経っても咲かないケースもあるそうで、文字通り一木一草に気を遣っての作業だ。

世界の人たちを惹きつける街づくりとは?

 世界の都市間競争に勝つためには何が必要か、という視点で森ビルは街づくりを進めてきた。〝学ぶ〟ということでは、インターナショナルスクールを招致。都心最大級の生徒数(約700人)を誇る『ブリティッシュ・スクール・イン東京』が開校。英国式の教育カリキュラムを提供する同校は創立30年の歴史を有し、50カ国以上の国籍の生徒が集う国際色豊かな学校だ。

 日本最大のインターナショナルスクールといえば、東京・調布にある『アメリカンスクー
ル』(生徒数約1500人)だが、都心から調布まではバスで約1時間はかかる。学ぶ子供たちにとっても、住まいと学校が近い事のメリットは大きい。『虎ノ門・麻布台』はA街区、B1・B2街区、そしてC街区と3つの街区に分かれる。この中でA街区は高さ約330㍍を誇る多用途複合の超高層タワーで、この4月21日に上棟を迎えた。

 総貸室面積は約20万4000平方㍍、基準階面積は約4300平方㍍という大規模超高層タワー。
 この中に、オフィスや、『アマンレジデンス東京』(世界有数のラグジュアリーリゾートを手がけるアマンとのパートナーシップ)、さらに先述した『慶應義塾大学予防医療センター』、『ブリティッシュ・スクール・イン東京』などが入る。
「さまざまな都市機能をちゃんと整備していこうと。情報発信拠点もそうだし、アマンレジデンスなども、そういう層が必要とするような住宅が必要だし、外国人向けのサービスアパートメントやホテルも必要だということですね」

 辻氏は、街には複合機能が求められるし、それらを整備することで内外の人たちが文字通り国籍を超えて交流する場を提供できるという考えを示す。
 都市の魅力の大きな要素の1つである〝食〟でいうと、ミシュランの格付けというものがある。そのミシュランの星を取っている店は港区内だけで78店ある。東京都内には203店あり、港区の78店は、銀座・日本橋を抱える中央区の52店より多い(2022年調査)。
 欧米主要都市で、このミシュランの星を取っているのは、パリ116店、ニューヨーク64店。
 こうした数字を見ても、東京は食文化の情報発信拠点であり、そうした魅力をどう創り出し、どう世界に発信していくかという命題である。

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本誌主幹 村田博文

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