障害者の〝才能〟に依存するビジネスモデル「ヘラルボニー」という社名は、松田兄弟の4つ上の自閉症スペクトラム障害の兄がノートに書いていた〝謎の言葉〟。文登氏は、幼い頃に感じた障害者に対する社会の反応への違和感を次のように語る。
「父母が3~4つの福祉団体に入っていて、自分も毎週末ルーティーンでそこへ行ってダウン症や自閉症、身体障害など、障害のある人と普通に接していました。でも、あるとき、兄と一緒に街に出たら、兄を指さして笑う人がいたので、『バカにするな』と言いに行ったんです。障害のある人も自分たちと同じように見てもらいたかった」
写真左から、ヘラルボニー社長CEOの松田崇弥氏(弟)、ヘラルボニー副社長COOの松田文登氏(兄) 崇弥氏も「いつかは福祉関係の仕事がしたい」という思いがある中で、「24歳の頃、母に岩手県にある『るんびにい美術館』の存在を教えてもらい、知的障害のある人のアート作品を見て、すさまじい衝撃を受けたんです。社会貢献とか、頑張っているという文脈ではなく、まず、かっこいいと。額装の見せ方などで100%かっこよくなると感じたので、作品性のある形で、美しい状態で社会に出していけば商流に乗せていけるという仮説を立てて、双子の文登に声をかけて起業」した。
「福祉は支援という側面が強いですが、そうでない側面を見せたい。障害のある人たちの才能にわたしたちが支えられてビジネスが成り立つという構造が社会にあったらすごく面白いなと思い、会社にしたんです」
〝福祉実験ユニット〟と銘打つのにも理由がある。
▶「システム業界の商習慣を変える!」 東大発AIベンチャー・PKSHA Technologyの挑戦「福祉ってミスをしてはいけない、チャレンジしづらい空気感があると思っていて。実験という言葉を入れることで、ミスも成功も見せて開示していく。そうすることが福祉領域そのものを拡張することにもなる」と考える。また〝ユニット〟という言葉には、いろんな業界や組織と組んで共創していきたいという思いが込められている。
「『異才を放て』が会社のミッション。アーティストだけでなく、障害のある人の〝得意〟なところに目を向けていこうと。ホテルでベッドメイキングするのがその人の異才かもしれないし、飲食で何かを作るのが異才かもしれない。将来的には色んな形があり得ると思っていて、デベロッパーさんなどに障害のある人たちが働くカフェのアイディアなども出しています」
「会社として大事にしているのは市場の開拓というよりも思想を開拓すること。障害は欠落ではないという思想を開拓していくことで僕らの収入にもつながることを追求していきたい」
鎌倉投信やJR東日本スタートアップ等の出資を受け、IPOも目指している。ヘラルボニーという組織もデザイナーなど各分野のプロ(異才)が結集して事業を展開。多様な才能や個性を価値に変える挑戦が続く。