2024-04-25

「退職者は裏切り者ではない」住友商事の『アルムナイ』活用戦略

1月に開催されたアルムナイと現役社員との交流会

〝住商愛〟を持っている人を増やすことができないか



 今年1月、住友商事の社内でアルムナイ(卒業生)と現役社員との交流会が開催された。転職や起業を理由に同社を退職した人たちと現役社員の合計約120名が意見を交わすことで、多くの人々が旧交を温めたり、新たな事業創出のヒントを得たりしていた。

「これまで個人で退職者とつながっていることはあったが、会社として退職者を組織化することで、より〝住商愛〟を持っている人を増やすことができないかと。一度退職しても、住商とつながっていたい、戻りたいと思ってもらえるような会社になるためにも、オープンな組織や文化が必要だと思っていて、そのベースとなるインフラとしてアラムナイ・ネットワーク(住商ではアラムナイという)が活性化していければ」

 こう語るのは、住友商事HRソリューションズ部人事チーム課長代理の柴田亮氏。

 近年、大企業を中心に「アルムナイ(卒業生・同窓生)」と呼ばれるOB・OGと現役社員との交流組織が増えつつある。人材が流動化していることや人手不足を背景に、退職者とのつながりを持ち続け、交流を図ることで、ビジネス連携や再雇用などを図ることが目的だ。

 住商が同ネットワークを設立したのは2019年のこと。当時の人事担当役員が、自身の米国駐在時の経験から、米国で普及が進むアルムナイ・ネットワークを同社でも設立しようと考えたのがきっかけだ。

 アルムナイ導入の狙いは主に二つ。一つはアルムナイとの関わりを通じて、外部の知見を入れることでイノベーションを起こすこと。もう一つは、組織風土をよりオープンなものにしようということである。

「言葉は悪いが、一昔前であれば退職者は裏切り者扱いされて、退職者が前の会社とかかわることは無かった。しかし、会社としてDE&I(ダイバーシティー、エクイティ&インクルージョン=多様性、公正性、包摂性)を打ち出しており、そこともマッチするような取り組みとして始まった」(柴田氏)

 住商の場合、アルムナイの対象は転職や起業を理由に定年退職の前に退社した人物で、多くが30~40代。「特に数を増やそうとは考えていない」というが、すでにネットワークの登録者数は約600名規模になった。

 近年、日本でも、従来の終身雇用を前提とした働き方ではなく、海外で主流の「ジョブ型(人ではなく、仕事に報酬が紐づいている働き方)」へ移行する企業が増えている。

 昔は会社が終身雇用を前提に社員のキャリアパスを設定し、個人のキャリアを築いていくことがほとんどだった。しかし、最近は新入社員でも初めから終身雇用は望んでいない。自らキャリア設計を考え、転職も当たり前の時代になっている。

「最近は会社が嫌で辞めるのではなく、将来のキャリアパスに向けて辞められる方がほとんど。そうした人たちが元住商という肩書で頑張ってもらうことは、われわれにとっても刺激になるし、当社がさらに良い会社になれば、アラムナイにとっても誇りに思うことができるだろうと。そういうウィン・ウィンの関係になれば」(柴田氏)

 住商では特別、出戻り採用のような枠は設けていない。それでも、毎年1~2名の退職者が復帰する事例も出てきた。これもアルムナイ・ネットワークのような、退職者とつながる仕組みを構築していることと関連性があるのかもしれない。

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