2024-03-05

小川啓之・コマツ社長「困難な場を経験させることでキャリアを積み、レベルアップできる!」

小川啓之・コマツ社長

人をいかに育てるか─。海外売上高比率が9割のコマツの場合は「修羅場を経験させる」と社長の小川啓之氏は語る。コロナをはじめ、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル紛争など想定外のリスクが起こることが当たり前となった。その中で同社は現場・現物・現実の3現主義で成長してきた経緯がある。建機市場はCO2ゼロ時代に突入しつつある。何が電動化の最適解か分からない中で、小川氏が導き出した進路とは?

小川啓之・コマツ社長 「世界市場は欧州や中国が低迷だが米国は堅調。市場を良く見て対応していく」

建機のカーボンニュートラル

 ─ 海外売上高が9割を占める中で、ASEANを今後の成長市場に位置付けています。その際、建機の電動化が重要になってきますね。

 小川 そうですね。我々は「ブリッジテクノロジー」と呼んでいるのですが、カーボンニュートラルに向けた新動力源やソリューションの開発が実現するまでの間の架け橋となる技術が重要になります。

 具体的には「ハイブリッド」やディーゼルエンジンを発電機代わりにしてモーターを回して動かす「ディーゼルエレクトリック」などです。

 ハイブリッドは、現在20㌧と30㌧クラスの油圧ショベルや、鉱山で稼働する超大型のホイールローダーなどを市場導入しています。ハイブリッドはおそらくコマツしか量産できないと思います。

 ハイブリッドのキーコンポーネント(限界成分)であるキャパシタ(蓄電器)やモーターなどは内製していますので、これはコマツの強みであり、当社しか量はこなせないですね。ですから、ハイブリッドでは他社に対しても非常にアドバンテージがあるので販売を増やしていきたいと思っています。

 ─ これはカーボンニュートラル時代では、非常に有力な武器になりますね。

 小川 もともとハイブリッドは2008年に、他社に先駆けてコマツが量産しました。ただ、そのときはまだ「ハイブリッド建機」という市場は形成されていませんでした。その理由は他社が追随してこなかったからです。

 一時期、ハイブリッドに対して様々なインセンティブが出ました。例えば、公共工事でハイブリッド建機を使うとポイントが上がるといったものです。それで需要が出てきたのですが、他社が追随してこないままインセンティブが終了してしまった。

 自動車の場合は、トヨタ自動車がハイブリッドを出して、他のメーカーもどんどん追随したことで、ハイブリッド自動車の市場がグローバルに形成されていったのですが、残念ながら建機ではできなかった。しかし今は建機のハイブリッドが見直される機会になっているのではないかと私は思っています。


総所有コストをいかに下げるか

 ─ そこは追い風ですね。

 小川 ええ。ですからもっと売れるのではないかと期待しています。

 すでに欧州においては、我々が販売している30㌧クラスのショベルの売り上げのうち、4割以上がハイブリッドです。また、北米でも今までハイブリッドはあまり売れなかったのですが、昨年の北米最大の建機見本市「CONEXPO」でハイブリッドを展示したところ、お客様からは非常に好評でした。

 建機のカーボンニュートラルは、最終的には電動化や水素を活用した燃料電池(フューエルセル)、水素エンジンといった技術でしか達成できません。ただ、そこに至るまでの過程で、いま持っている技術を最大限生かすことは重要だと思っています。

 ─ これまでの技術開発が実ってきたと。

 小川 実ってきたといいますか、そういったことをずっと続けてきたということです。いま展開している電動化もグローバルではどこにも市場はありません。欧州で少しずつバッテリーのミニ建機の需要が出てきた程度です。全く普及はしていません。

 その一番の理由はコストです。バッテリーやモーター、インバーター(電力変換装置)だけで大体コストの半分以上ありますから一般的な機械より2~3倍高くなります。

 例えば国からインセンティブが出たり、電気代が圧倒的に安い、あるいは新車から中古になるまでのオーバーホールコストなどを含めたTCO(Total Cost of Ownership=総所有コスト)が1.3倍くらいになれば、お客様は受け入れてくれる可能性がありますが、2倍では難しいと思います。

 ─ そのあたりの対応で各国に差はあるのですか。

 小川 中国では少し電動化建機が普及し始めています。これはおそらく国がインセンティブを出し、電気代も圧倒的に安いからです。TCOで見ても、ある程度お客様が受け入れてくれるレベルになっていると思います。

 ただ、中国以外の電動化建機の市場は全くありません。欧州もインセンティブが出ているのはノルウェーなどの北欧とオランダくらいです。ですからコストが最大のネックになってきますね。ただ最初に電動化のマーケットができるのは欧州だと思います。

 ─ なぜですか?

 小川 気候変動への意識が高いからです。それから比較的技術的なハードルが低いのはミニ建機で、このミニ建機の大きな市場は北米と欧州になるからです。ですから、まずは欧州でミニ建機の電動化の市場ができるのではないかと思っています。

 それからもう1つ市場ができるとすれば大型の鉱山のあるエリアです。特にメジャーと呼ばれるブラジルのⅤaleや英豪系リオ・ティント、豪英系BHPなどは既にマイニングオペレーション(採掘作業)のカーボンニュートラルやCO2ゼロをステークホルダーにコミットしていますからね。

 その意味では、鉱山のオペレーションでCO2を排出する超大型のダンプトラックのカーボンニュートラル化は必須であり、そこはある程度、コストも容認してもらえるのではないかと思います。ただ、そこの技術的なハードルはまだまだ高いです。

 超大型のダンプトラックをバッテリーだけで動かすのは、なかなか難しい。出力は大体1000キロワット以上必要になりますからね。そこで我々としてはバッテリーだけではなく、水素燃料電池や水素エンジンといった領域の研究開発を進めていく必要があると思っています。

 1つの動力源に絞らずに、全方位的にカーボンニュートラルに向けた技術の研究開発を進めていくという考え方ですね。

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