2023-07-20

【経済産業省】JICがJSRを買収へ 半導体素材の競争力を強化

官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が、半導体材料大手のJSRを買収することを決めた。買収額は約9千億円。

 先端半導体は、人工知能(AI)や量子コンピューターといったハイテク製品に欠かせず、さらなる性能の向上には多額の研究開発費が必要になる。JSRはJICの傘下に入ることで、成長分野への投資をしやすくすると共に、業界再編を進めたい考え。

「半導体素材産業は大幅な資本投資が必要。研究開発を効率化して規模を拡大し、国際レベルの競争力を維持したい」

 JSRのエリック・ジョンソン最高経営責任者(CEO)兼社長は、JICの傘下入りを決めた理由について、こう強調した。

 JSRは、半導体の製造に欠かせないフォトレジスト(感光剤)で世界約3割のシェアを持つ。フォトレジストは先端半導体の性能を高める微細化に必要不可欠な素材で、今後もさらなる市場拡大が見込まれる。

 現在、JSRを含め日本メーカーは感光剤の分野で高い世界シェアを持つ。しかし、JSRは公表した報告書で「海外の半導体材料メーカーは大型の合併・買収で競争力を高めている」と指摘し、危機感をあらわにした。

 こうした状況の中、JSRが昨年11月にJICに協議を打診。非上場化する方向で調整を続け、今年6月に合意した。

 ジョンソン氏は会見で、国内メーカーはプレーヤーが多く重複した投資をしているとして、「非上場化で、業界再編を先導したい」と意欲を示した。

 JICは年内にも株式公開買い付け(TOB)を実施する見通しで、成立すればJSRは上場廃止となる。その後、企業価値を向上させた上で、5~7年後の再上場を目指すという。

 政府も経済安全保障上の観点から半導体を「重要物資」に位置付け、半導体メーカーの工場誘致などに多額の補助金を出してきた。経済産業省のある幹部は、「JICの投資は個別判断」と話したが、日本が強みを持つ半導体材料の分野での競争力維持は、政府としても必要不可欠だったとみられる。

 ただ、JICの支援でJSRの思惑通り業界再編が進むかは不透明だ。かつて政府が主導したものの、失敗したケースも多い。業界再編に成功し、再びJSRの再上場につながるのか。

 世界的に半導体への投資競争が進む中、JICは政策効果の成否を問われることになりそうだ。

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