2023-07-20

《教えて!森本敏・元防衛大臣》ウクライナ戦争はいつまで続くのか? 

森本敏・元防衛大臣

NATO首脳会談を前に…


 ─ ロシアによるウクライナ侵攻から1年5カ月が経とうとしています。ウクライナ軍が反転攻勢を強め、ロシアでは民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が武装反乱を起こして、隣国ベラルーシに出国したと伝えられています。森本さんは現状をどのように見ていますか。

 森本 ウクライナは戦争が始まって以来、この1年5カ月の間、NATO(北大西洋条約機構)諸国側等から、いろいろな支援を受けてきました。

 ゼレンスキー大統領も来年には選挙を控えており、7月11日から開催されるNATO首脳会談までに、ウクライナの戦況を有利な状態に展開して、停戦協議再開という時になれば、軍事的に有利な立場を確保して外交交渉のリードを取りたい。ゼレンスキー大統領は今年の初めくらいから、そう考えて反攻作戦再開の準備をしてきたと思います。

 そのために、ゼレンスキー大統領は繰り返し、ドイツ製の「レオパルト2」、英国の「チャレンジャー2」、米国の「M1A1 エイブラムス」といった重戦車を含めて、少なくとも200両以上が欲しいと各国に頼んでいました。

 ─ 各国というのは、この3カ国以外にもあるということですか。

 森本 レオパルトは欧州で多数の国が持っていますから。

 今回、ウクライナは6月4日から反攻を始めました。反攻作戦はウクライナ東部と南部で行われていて、東部の方はロシア側がかなり堅い防御戦を引いていて、ウクライナ側の反攻作戦は攻めあぐね、南部作戦と比べて反攻速度が遅かった。ただ、ワグネルが崩壊した後はロシア側の抵抗が鈍ってウクライナ側の反攻速度が速まった。

 一方、ウクライナは、南部へルソン州に重点を置いて反攻作戦を進めてきました。その理由は、ロシアがクリミア半島を維持確保するために必要となるロシア軍の作戦行動経路と補給線がウクライナ南部の要衝を通っており、ウクライナ側としては、この南部地域を占拠することが重要だということで、南部に反攻作戦の重点を置いてきたと思います。

 ウクライナは米国から衛星情報を十分に提供されて、ロシア側の地上軍をピンポイントで精密攻撃できるので、それだけ考えるとウクライナの方が有利なはずです。しかし、そうならないのは、ロシア側が戦闘機に搭載された長距離の対地攻撃用巡航ミサイルやヘリ搭載の対戦車ロケット、あるいは、無人機をウクライナ軍の地上戦力に打ち込んでいる。

 戦車・装甲車は、空からの攻撃には割合弱いので、陸上戦闘だけを考えるとウクライナ軍がやや有利なんですが、空地作戦を進めるロシアが有利な場合もあり、なかなか難しいという状況です。

 ─ 空からの攻撃に対して、ウクライナ側は反撃能力が弱いのですか。

 森本 ウクライナ側は「パトリオット」、「スターストリーク」、「NASAMS」などの対空ミサイルを各国から提供されているのですが、ウクライナ側は、首都キーウなど主要な都市の民間人の防衛・防空用に配備しているので、十分ではない対空ミサイルを戦場に多くは配置できない。またウクライナ側は、そもそも航空機が十分でない。だから、ウクライナ軍の戦車・装甲車は、ロシア空軍機から相当被害を受けているんです。

 それでもトータルで見ると、ウクライナ軍がやや優位な戦闘を進めているということができると思います。いずれにしても、ゼレンスキー大統領はNATO首脳会談の前に是非とも成果を上げたいということで、約1カ月前に、十分な重戦車がないままに見切り発車的に反攻作戦に出たわけで、自分たちが考えていたほどには進んでいないというのが現状です。

 一方、ロシアの方は、ワグネルがどうなるかについて混乱が見られます。

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