2023-05-11

電力会社の赤字が相次ぐ中、『東電EP』新社長・長﨑桃子に課せられた課題

長﨑桃子・東電EP新社長

地産地消サービスに軸足を!



「4月から法人のお客様に値上げをお願いしており、ビジネスのベースになるものにご負担をおかけするわけだから、大変心苦しい気持ちだし、規制を中心とした家庭のお客様にも料金の見直しを申請中で、これも暮らしの安心に直結するエネルギーに対するご負担をおかけしているので、経営としては苦渋の選択だった」

 こう語るのは、4月から東京電力ホールディングス(HD)傘下の電力小売り事業会社・東京電力エナジーパートナー(EP)の新社長に就任した長﨑桃子氏。

 燃料費の高止まりが、電力各社の経営を圧迫している――。

 前期(2023年3月期)は東電HDを含めた大手電力会社が軒並み赤字に陥る見通しで、火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)や石炭の調達コスト上昇分を電気料金に転嫁できていないのが要因だ。

 そのため、各社は国の認可が必要な「規制料金」の引き上げを申請。東電HDも6月から平均17.6%引き上げすることを経済産業省に申請している。

 現在は世界的な燃料価格の高騰に円安も加わり、東電HDは前期に5020億円の経常赤字となる見通し。子会社の東電EPは燃料調達コストが上昇したことで、昨年6月には一時、債務超過へ陥った。

 このため、東電HDが昨年10月に2千億円、今年1月にも3千億円の追加資本を注入。増資額は合計で5千億円となり、債務超過は解消したが、財務基盤の強化は喫緊の課題である。

 ただ、東電HDは料金算定の前提に柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働を織り込んでおり、想定通りに稼働できるかどうかは不透明。地元同意はまだ得られていない上、テロ対策の不備もあって、原子力規制委員会が事実上の運転禁止命令を出したままだからだ。

 このため、長﨑氏は値上げによる電力事業の立て直しに加え、地産地消サービスに軸足を移していく考え。従来のような大型の発電所を建設して電力を供給するビジネスから、太陽光などの再生可能エネルギーに蓄電池を組み合わせることによって、新たなビジネスモデルを創出したいという。

「例えば、今までお客様の財布から100の支出が出ていたものが、地産地消サービスで太陽光から発電した電力を蓄電池で貯めて使うとなると、系統の電気の使用量は30くらいになる。100が30になるということで、会社が持続的に成長していくためには太陽光や蓄電池も設備としてアズ・ア・サービスで提供し、しっかり稼ぎを出していくことが必須」(長﨑氏)

 また、足元では電力業界そのものの〝信頼〟をいかに取り戻すかも大きな課題。電力業界で、カルテルや新電力の顧客情報などの不正閲覧など、不祥事が相次ぎ露呈しているからだ。

 電力販売を巡るカルテルでは、公正取引委員会が独占禁止法の違反で中国電力や中部電力、九州電力など4社に、過去最高となる合計約1010億円の課徴金納付を命じた。

 また、昨年末以降、関西電力や九電などが顧客情報を不正閲覧していた他、2月には東電EPの一部社員が経済産業省の管理するシステムを不正閲覧していた問題も発覚。

 電力自由化という制度改革が骨抜きになりかねない問題が相次いでおり、業界全体で抜本的なコンプライアンス(法令遵守)体制の整備が急務。

 長﨑氏は「相対的に価格が安くなったこと。そして、何より消費者が自分の意志で選択したマーケットになったということが自由化の大きな意義」だとした上で、「コンプライアンスやカルテル、不正閲覧など、中には弊社が関与していない問題もあるが、信頼は全てのビジネスを行う上での基本。安全とコンプライアンスが一番、それ以外は全て二番だということを社員にも徹底していきたい」と語る。

「値上げ反対」などの意見が相次ぐ中で…



 長﨑氏は4月13日、経産省が開催した規制料金の値上げ認可に関する公聴会に出席。参加した消費者からは「経営の効率化は不十分」「値上げ反対」などの意見が相次いだ。経産省は消費者の声を参考にする考えだが、別の電力業界関係者からは「あんなつるし上げのようなことしなくても……」との声や「値上げが嫌なら停電を受け入れたり、エアコンもスマートフォンも使わない生活を享受してくれるのか」という意見も出ている。

 現在、日本のエネルギー自給率は約12%。資源の大半を海外からの輸入に頼る日本が、エネルギー自給率を増やしていくためには、原子力の稼働を増やすか、再エネを増やすしかない。

 火力、原子力、再エネ各々に長所と欠点がある中で、日本は国民生活に不可欠な電力をどう確保していくのか。エネルギーの脆弱性が改めて浮き彫りになった今、エネルギー安全保障を巡る国民的な議論が必要だ。

 特に世界的に脱炭素化の機運が高まる中、消費ベースで日本のCO2(二酸化炭素)排出量の約6割は家庭から出ている。東電EPは電力小売り事業者として、一般の消費者にいかに脱炭素化を促していくのか。

「まずは家庭のお客様にサービスを提供している法人のお客様に脱炭素化の提案をし、結果的に家庭の脱炭素化を進めていく。もう一つは環境にいいからと言うよりも、カーボンニュートラルはクールで格好いいという地合いをつくることができれば、消費者はそういう方向に流れていくと思う。財務体質を改善することが先決だが、同時に東京電力として、そういう地合いをつくっていければいいと考えている」と語る長﨑氏。

 資源価格高騰の時代に新価格体系をどう構築していくか。そして、脱炭素化への対応など、多くの課題が山積する中で、長﨑氏の経営手腕が問われる。

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