2023-05-10

【新宿・歌舞伎町が変わる!】 来街者を呼び込む「東急歌舞伎町タワー」の仕掛け

国内最大級のホテル×エンタメ施設からなる「東急歌舞伎町タワー」

日本一の歓楽街と言われる新宿・歌舞伎町。猥雑なイメージが先行するこの場所が洗練されたエンターテインメントのエリアとして生まれ変わろうとしている。その仕掛け人は渋谷を拠点とする東急だ。4月14日に開業したホテルとエンタメ施設のみで構成される「東急歌舞伎町タワー」は歌舞伎町を「エンタメの街」として発信するだけでなく、従来から抱えている課題の解消にも寄与する面を持つ。他のエリアの再開発の参考になりそうだ。

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戦後から縁があった場所

 国内でも有数の規模を誇るターミナル駅・新宿。その中でもとりわけ飲食店やアミューズメント施設、映画館などが集中している繁華街が歌舞伎町だ。その歌舞伎町のイメージが大きく変わろうとしている。その起爆剤になるのが東急の手掛ける「東急歌舞伎町タワー」だ。

 なぜ渋谷を拠点にする東急が新宿で再開発を行うのか─。同社にとって最重要エリアは東急沿線だが、その一方で自社の成長を牽引するため、これまで沿線の再開発で培ってきたノウハウを生かし、活用できるビジネスチャンスのあるエリアも当然視野に入る。

 その1つが歌舞伎町。しかも、歌舞伎町は東急と全く縁のない場所ではない。新タワーが立つ以前、その跡地に2014年まであったのが「新宿TOKYU MILANO」。それより以前の1956年には「新宿東急文化会館」、更に遡った50年には歌舞伎町をメイン会場に東京産業文化博覧会が開催。その後に残った建物を譲り受けたのが東京急行電鉄(当時)だった。

 加えて戦後、焼け野原だった歌舞伎町で地元の町会長が戦災復興区画整理事業を進める際、その町会長に助言したのが東急グループの事実上の創立者だった五島慶太氏だった。五島氏は歌舞伎町を「道義的な繁華街」として生まれ変わらせ、劇場や映画館、ダンスホールを建てるように助言していた。

 そんな縁の深い場所に建設された新タワーの位置付けは「国内最大級のホテル×エンターテインメント複合施設」だ。同タワーには映画館・劇場・ライブホール・フードホール・アミューズメント・地下牢の攻略を目的とした世界初のアトラクション体験施設・トレーニングジムやプライベートサウナなどからなるウェルネス施設といったエンタメ施設、そして2ブランドのホテルなどで構成される。

「わざわざ歌舞伎町に足を伸ばすためのモチベーションを生み出すような施設をつくることが開発のテーマだ」─。執行役員新宿プロジェクト企画開発室室長の木村知郎氏はこのようにコンセプトを語る。歌舞伎町という立地上、オフィスや物販よりもホテルやエンターテインメントのニーズが高いと踏み、同社では珍しいオフィスなしの超高層タワーとなった。


空港バスターミナル整備の意味

 ここでポイントになってくるのが新たな来街者をどう呼び寄せるかだ。歌舞伎町と言えば、一角に警察官の出動が多い「トー横」といった治安の面で不安定なエリアがあることも事実。そこで東急はこれまでの再開発の経験を踏まえ、「犯罪をしようとする人々にとって居心地の悪い環境をつくる」(幹部)ことを心掛けた。それは新たな来街者を増やすということだ。

 若者以外のインバウンドやファミリー層、OLなどを増やせば写真を撮影する人たちも増える。それが抑止効果につながるからだ。〝第三者の目〟を増やすことで〝自粛〟につながり、自浄作用が働くようになる。

 そのため、新タワーの目玉の1つとなっているのが交通アクセスの向上だ。具体的には1階に空港リムジンバスの発着場が設置されており、羽田空港から約35分、成田空港から約1時間30分で直接、歌舞伎町のど真ん中に来ることができる。

 この恩恵は西武鉄道にも波及しそうだ。西武新宿線の沿線住民が新宿で空港方面行きのバスに乗ろうとしても、西武新宿駅から徒歩で、あるいは高田馬場で乗り換えて新宿南口にあるバスターミナル「バスタ新宿」まで行かなければならなかったが、新タワーのバスターミナルを使えば西武新宿駅からのアクセスが飛躍的に向上することになる。

 また、新タワーの1階には東西貫通通路が整備されており、回遊性も重視。「ビルの中で人を囲い込まず、外と中を自由に行き来できる」(首脳)ようになっているのだ。新宿駅東口から西武新宿駅~歌舞伎町を通って大久保エリアまで徒歩で歩けるような周辺整備も行っている。

 さらには新タワーの正面には屋外ビジョンがあり、タワー内のライブ映像なども放映。そうなれば、ライブをするアーティストのファンも集まることになる。また、新タワーの前にある「シネシティ広場」も開放し、路上アーティストのライブの場としても使ってもらえば、これまで歌舞伎町を訪れたことがなかった客層も取り込める。

 これらの取り組みは海外の主要都市では通例となっている夜間帯の観光(ナイトタイムエコノミー)の活性化にもつながる。木村氏も「歌舞伎町を遊びつくしてもらい、歌舞伎町で宿泊してもらいたい」と期待を込める。

 そんな東急にとっては歌舞伎町を整備することで、新大久保から新宿、原宿、渋谷、代官山といった具合に、城西部全体の回遊性が高まれば自社の鉄道利用者の増加にもつながると見る。

 新宿では反対の西口で小田急電鉄などによる地上48階の大型施設開発計画が進んでおり、近隣の渋谷では東急自らがグループを挙げた再開発を手掛ける。また、池袋も「アニメの聖地」として世界中のアニメファンを惹きつける場所になっている。

 来街者を呼び寄せる激戦区となりつつある副都心の中で、新宿との太い結びつきがなかった東急がどれだけ新たな来街者を呼び込めるか。新タワーがその橋頭堡となるかが試される。

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