2021-10-13

【監査役・監事の役割とは?】会計学の大家・八田進二氏が語る「求められるのは職業専門家としての矜持と倫理」

八田進二・青山学院大学名誉教授(大原大学院大学教授)



15年間で拡充した制度改革

 ─ 法律面でもここを強調した制度改革は進んできました。

 八田 はい。ただ、監事も自分たちの人事権まで理事長や理事会に握られているという場合が多い。そのため、なかなか理事長や理事会にモノを言えないと。これは株式会社の場合も同じです。株式会社の場合は監査役の身分保証をするために任期をどんどん延ばしてきました。

 昭和49年まで、どんなに大きな株式会社でも監査役は1人いれば良かった。それが2人以上、3人以上と人数が増えると共に、任期も最初は1年でしたが、今では4年まで延びました。そして、上場会社は最低3人の監査役のうち、常勤監査役も置かなくてはいけなくなりましたし、外部の監査役も置かなくてはいけなくなりました。制度面では実効性を高める改革がなされたてきたのです。

 ─ 社会福祉法人や医療法人はどうですか。

 八田 公益法人や社会福祉法人、医療法人といった非営利組織になると、そういう規定がありません。しかし、株式会社の流れを見るならば、業務監査も必要だという流れにあります。理事会及び理事長の行動をきちんと監視をし、暴走を食い止めなければいけないということです。

 そのためには、理事長や理事会にとって耳の痛いことも言わなければなりませんし、場合によっては争いも起きてしまうかもしれません。しかし、それは監事が個人としてやっているのではなく、背後に社会全体があるという認識を持って行動している結果になります。しかし、覚悟と矜持を持った監事が本当にいるだろうか。非常に寂しいものがありますね。

 ─ 八田先生は企業のガバナンスも研究していますが、ここ15年間、日本企業のガバナンスは進展したと見ていますか。

 八田 外の目にさらされる機会が多くなったことは評価できると思います。株式会社は私企業ですから、本来であれば自分たちのやりたいようにやればいいわけですが、上場会社、あるいは大会社として機能するためには、自分たちの会社は公共性や社会性を持った「社会的な器」であるという認識が必要になります。要するに、株式会社がそういう存在であるということをすべての社員が理解できているかどうかです。

 この15年間で、内輪の議論によって物事を隠蔽することは不可能になりました。あるいは先送りもできなくなったわけです。それは経営トップの意識の問題もあるでしょうし、環境の問題もあると思います。その環境とは要するにデジタル化です。

 ─ 透明性が求められる社会になっているのは事実です。

 八田 そうです。誰もがスマートフォンや携帯電話を持ったために、自由に匿名性をもって外へ情報を発信できるようになりました。ですから、企業も都合の悪い情報を隠すことができないようになったわけです。

 それと不祥事が起きると、社会が厳しい糾弾をしますし、それを反面教師に学ぶという面もあります。我々教育の現場もそうです。我々はプロフェッショナルを育てなければなりません。プロにとって何が必要かというと、まずは専門的知識です。そしてコアにあるのは職業専門家としての倫理と言われています。

 したがって、専門職大学院の場合には、いずれもほぼ必修で職業倫理を学ぶことになっています。ただ、専門職大学院に通う社会人の学生に突然、倫理観を高めるように促しても、すぐに学生の倫理観が高まるものではありません。

 しかし、それが全く意味がないのかと言えば、そんなこともありません。人間は時が経つと意識も薄らいできます。それでも、毎週のように倫理の重要性をお題目のように言われ続ければ、やはり気づきの気持ちが出てきます。自分のやってきたことや言ってきたことについて立ち止まって冷静に見つめ直し、考えることができるようになるのです。

【ジェイフロンティア】健康食品の通販を柱にオンライン診療からオンライン服薬指導、薬の宅配まで

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事