時代についていけない社長が君臨し続けるのは悲劇
―― では、今後、日本のガバナンスはどうあるべきだと考えますか。
牛島 日本人にとってのガバナンス、日本企業にとってのガバナンスは一体どういう形を目指すべきなのか。これは一概に言えることではありません。よその国の制度をつまみ食いで移入することなど、簡単に出来るはずがありません。
例えば、日本の大企業の中には4年定年制とか6年定年制という慣習が確立している企業がたくさんある。わたしは、個人的には良い社長であれば何年経営を続けてもいいとも思っており、4年経ったら順繰りに辞めなくてはいけないというのは良くないと思うんですが、とはいえ、これも何十年かけて蓄えた知恵なのだと思います。
というのも、やはり、どんなに優れた人であっても腐敗したり、時代に取り残されて駄目になる場合があるんです。腐敗は最悪ですが、時代についていけない社長が君臨し続けるというのは、その会社にとって悲劇です。そのため、トップが腐敗することに備えて、予めそのトップを排除できる仕組みが必要なのです。社長の事実上の定年制もその一つの知恵なのです。
以前、ある巨大企業のトップと話したときに聞いたのですが、やはり、社長というポジションはやろうと思えば、何でもできると。しかし、それでは良くないから途中で辞めるんだと。それがトップに立つ人の正しい倫理観として確立しているのだと思いますし、それが本当にいいかどうかは分からないけど、一つの自浄システムになっていると思います。
―― そうしたバランス感覚が日本の風土にはあるんですね。
牛島 やはり、それは厳然とあると思います。
もう一つは、三菱ケミカルホールディングスの事例です。前会長の小林喜光さんが着々と手を打たれていたんだと想像しますが、2015年に指名委員会等設置会社に移行しました。
その後、指名委員会を小林さん以外は全て社外の人物で構成し、日本IBMの社長だった橋本孝之さんなど、海外経験豊かな人たちをメンバーにして、その指名委員会がベルギー出身のジョンマーク・ギルソンさんを新社長に指名しました。
つまり、社外取締役だけで選ぶというのではなく、実質のあるシステムになっていて、こうした形のガバナンスも素晴らしいものとしてあるんだなと思っています。