2021-09-27

【コロナ禍での病院連携】全日本病院会会長が語る「機能分化について病院も加わった身近な地域単位での議論を」

猪口雄二:全日本病院協会会長(医療法人財団寿康会理事長)



逼迫する医療現場の現実

 ─ 国にとっても医療分野にとっても初めての経験です。

 猪口 ええ。昨年の最初の緊急事態宣言が出たときは街から人がいなくなりました。患者さんも怖くて病院に行きませんでしたら、私の寿康会病院でも患者さんの数は半分ぐらいになりました。そして足元の第5波でオーバーシュート(感染症の爆発的患者急増)という状況です。

 特に家庭内感染が非常に多い。そうすると、自宅療養でも部屋を分けて欲しいとなるわけです。一方で、独身世帯はどうするか。外出できないならその人の食事をどうするのか。行動を制限するにも限界があります。

 ─ マスクをしてれば大丈夫と言えるのですか。

 猪口 ええ。相当な防備にはなります。陽性者がマスクをすることによって、人にうつす確率が減ることは間違いない。しかし、ゼロではありません。それから他の陽性者の唾が飛んできて、それを予防できるかというと、100%とは到底言えません。ですから、医師も看護師も感染者と接するときは厳重な防備をしています。

 ─ 医療現場の逼迫は続いていますからね。

 猪口 みんな疲れ切っています。それでも自分のできることを精一杯やっているのです。今は20代や30代の若者の陽性者が増えていますが、ワクチンの接種もしっかりやって欲しいですね。デルタ株などの変異種も広がっています。ワクチン接種は全国民の6割くらいに広がれば社会的に免疫がつくとも言われています。人類始まって以来の経験ですから、国民全員で対応していかなければなりません。

 ─ まさに危機管理ですね。

 猪口 はい。危機管理の時は、国民もどこかで目をつぶらなければならないと思います。日本ではこんなにベッドも一杯あるのに医療崩壊が起こっているのはおかしいと言われたりもしますが、そもそも日本のように軽症者や中等度の患者さんにも入院させて、手厚く医療を提供している国は他にありません。

 ─ 国の在り方ですか。

 猪口 医療の在り方です。日本の医療は国民皆保険で全ての人が医療を受ける権利を持っています。国民皆保険制度は1961年に構築され、これまで延々と組み立てられ続けてきました。海外とは異なる独自の仕組みを構築してきたのです。

 それを今回のコロナを機に変えようと思っても、そう簡単にできるものではありません。しかし、この国民皆保険制度は世界に冠たる素晴らしい制度だと思います。誰でも病気になったら医療を受けることができるわけですからね。そこは壊してはならないところだと思います。

 ─ そうすると、壊さずに対応できる危機管理の仕組みをどうつくるかになりますね。

 猪口 そうです。病院もコロナを機会に、自分の病院が持っている機能を見つめ直しています。大病院は大病院の役割と使命を果たし、民間病院もコロナ患者の受け入れ対応ができなくても、その地域に住む人々の健康を預かったり、軽症な患者さんの入院にも対応していかなければなりません。ですから、今後は、そういった機能分化や連携がよりはっきりしてくるでしょうね。

【新型コロナ】塩野義製薬社長が語る「国産ワクチン・治療薬メーカーの役割」

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事