2021-09-17

東京海上ホールディングス社長が語る「我々の事業の成長は社会課題の解決によってのみ実現する」

小宮暁・東京海上ホールディングス社長



グループ企業間のシナジーを追求


 ─ 今、東京海上グループは日本、欧米、アジアに拠点を持っていますが、この一体感はどう醸成していきますか。

 小宮 我々のグループ一体経営の姿は、わかりやすく言うと「グローカル×シナジー」です。強いローカルがあって初めて、グローバル企業になることができると。

 その上で、それぞれのグループ企業間のシナジーを出していくための取り組みを進めています。今46カ国・地域で事業を行っていますが、それぞれのグループ企業が持つ専門性、英知と、グループでのビジネスのパーパスを実現しようという熱意、一体感をグループ全体の政策のど真ん中に取り込んでおり、その手応えを感じています。

 ─ これまで様々な海外企業を買収して海外事業を成長させてきましたが、その成果が出てきていると。

 小宮 そうですね。例えば19年に買収を発表した米国の保険会社・ピュアグループを巡っても、グループシナジーを発揮していくための定期的な会合が自然に立ち上がっています。さらに、米HCC、米フィラデルフィア、米デルファイなど他のグループ企業とのコミュニケーションの中で、お互いの商品を販売し合ったり、コストシナジーを利かせていこうといった取り組みが進んでいるんです。

 各社が東京海上グループのプラットフォームを活用して、「フォア・ザ・グループ」で自発的に、非常に熱心に取り組んでくれています。

 ─ 日・米・欧・アジアそれぞれのよい部分を組み合わせていくと。

 小宮 はい。日本型経営には長期的な目線を持って、「人」を非常に大切にしていくという良さがありますが、全てが良いとは思いません。

 では欧米型経営はどうかというと、最近は少し変わってはきましたが、短期的、合理主義的で、良い部分もありますし、そうではない部分もある。そして世界全体がそうした方向になってきている感じがしないではありません。

 そうした中で、やはり日本の良さと欧米の良さを、お互いが理解し合っていく中でエクスクィジット・ミディアム( exquisite medium =絶妙な中庸)を探していくことが大事だと思います。

 例えば、12年に買収したグループの保険会社・米デルファイのCEOは現在、東京海上グループ全体の資産運用の共同ヘッドを務めています。

 東京海上グループ、そしてグループ企業それぞれが、グループ一体経営という観点の下で成長し、さらに進化していけば、簡単には真似されない独自性が、さらに強くなるだろうと思っています。

 ─ グローバル化が進んでいるわけですが、当面はあくまでも本社は東京ということになりますか。

 小宮 そうですね。ただ、本社機能が分散化しているイメージです。東京海上ホールディングスは日本の会社で、登記しているのは東京ですが、資産運用ビジネスの半分はニューヨークが担っていますし、サイバー保険のヘッドオフィスはロンドンです。

 ビジネスリスクの分散は、東京海上グループの中でとても重要なことですが、本社機能についても分散しつつあります。やはり最も専門性を持つ人間に、グループ全体の政策をリードしてもらうという考え方です。

 今、グループ全体で約4万3000人の従業員がいますが、約1万8000人が海外、約2万5000人が日本です。

 ─ 社内の公用語を英語にしていく可能性はありますか。

 小宮 今、例えば取締役会での説明に海外のメンバーが入ったり、経営会議にも海外のメンバーが入っていますが、英語と日本語が混ざった状態で、同時通訳を活用しながら進めています。いずれ英語で話すようにする必要があるかなとは思いますが、まだ決めていません。

 ただ、大事なのは議論の中身です。その兼ね合いもありますから、タイミングは課題です。

多様性と多様性の「化学反応」を


 ─ ところで近年、D&I(Diversity & Inclusion = 多様性と包含)は企業にとっても大きな課題ですが、考え方を聞かせて下さい。

 小宮 21 年4月に「ダイバーシティカウンシル」という、グローバルなグループの委員会を立ち上げました。大きな流れの中で、多様性を尊重し、活用することがグループの構成を考えても必要だと考えています。

 もう一つ、私はグループ内で多様性について、「成長戦略の一丁目一番地だ」という言い方をしています。なぜ、多様性を促進するのかという「Why」が大変重要なんです。

 多様性には人間の属性もありますが、他にも「経験」の多様性、物事を見る時の「角度」の多様性もあります。

 一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生は「知的コンバット」とおっしゃっていますが、我々は多様性と多様性の「化学反応」によって、新しい気付きやイノベーションが生まれると。

 今回の新しい中期経営計画でも「新しいアプローチ×新しいマーケット」という言い方をしていますが、その中で仮説検証サイクルをスピーディに回すことがとても大事なことです。

 その仮説をつくっていく時にも、やはり多様性の化学反応が必要です。

 良い仮説ができたら、それをスピード感を持って速く実現・実行する。それがうまくいった場合には、それを速く展開していく。うまくいかなかったら「また次に行くぞ」という形で切り替える。

 この動きを速くしていくことの原点が多様性ですから、グループとして元々持つポテンシャルの部分にフォーカスしていきたいと思っています。

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