2021-09-21

リスク過多の今に新しい保険業!【東京海上HD・小宮暁】の「顧客の『いざ』を支えるソリューションを!」

東京海上ホールディングス社長 小宮 暁



新しい保険の定義を!

「災害に対しての予防、つまり防災とか減災とか、あるいは健康増進とか未病という部分と、それに保険があって、その後はアフターケアですとか、再発防止ですとか、早期復旧、復興とか、こういったところの保険の前と後があります。保険を点から線に、線から面に広げていく。それで安全を提供できるというところに商品も拡大するし、場合によっては、そういう事業をしっかり構築していく」

 保険の前と後ろの事業領域を拡大、あるいは保険を〝点から線に〟、また〝線から面に〟という作業をしていく中で、ライバル企業との関係も変化していきそうだ。

「真ん中の保険はもしかしたら、他社にも入っているかもしれないけれども、予防とか防災とか、復旧・復興とか再発防止はうちの事業に入っていますというケースが出てくるかもしれません」

 小宮氏が続ける。

「そういう意味で、保険商品という所の一点ではなくて、そこはバリューチェーンと言いますか、安全と安心に対してのソリューション・プロバイダーとしての新しい生き方、リスクに対しての新しい保険の定義、新しい保険会社の在り方と言いますか、何かそういう挑戦が今始まっているのだと」

 小宮氏は、『新しい保険の定義』という言葉を使いながら、「ソリューション・プロバイダーというような感じのものに保険会社が変わっていくべきなのかなと。東京海上はそういうところを視野に入れて進化していきたい」と語る。

事業の「ど真ん中は人」

「保険業の本質は、人のビジネス、ピープルズ・ビジネスで、ど真ん中は人です」と小宮氏。

 デジタル戦略を進めながら、小宮氏は3つの経営コンセプトを挙げる。

 1つは「ミッション・ドリブン(使命で動く)」という認識がまず最初に来る。顧客にどんな価値を提供し、どう社会課題を解決していくかというミッションの追求である。

 2つ目は、「デジタルと人の融合」。中心は人であり、両者の融合で新しい価値を掘り起こしていく。

 3つ目は、「グローバルデジタルシナジー(相乗効果)を」。東京海上グループはデータのラボを世界に7カ所持っている。「共通のテーマをトライ・アンド・エラーでやって、結果を共有し、また最先端のものをみんなで共有する」ということ。

 小宮氏はこの3つのコンセプトを挙げながら、「ビジネスをつくるのも人ですし、仕事をやり直すのも人」であるとして、基本は「人」だと強調。

 グローバル化が進み、人の交流、協働化も盛んになる。一方で、米中対立、アフガンの混乱をはじめ、内戦や地域紛争が続く。コロナ危機も真っ只中であり、経済にもプレッシャーがかかる。

 グローバル経済は何のためにあるのか─。こういう問題意識を持ち、「それは人の幸福のためにあるのだ」という信念を持ち続けているリーダーの1人に、J・E・スティグリッツ氏(米コロンビア大教授、2001年ノーベル経済学賞を受賞)がいる。

 小宮氏は常務になった2016年春から1年間、同大学に留学。スティグリッツ氏の指導を受けた。

 世界に拡散した金融危機、リーマン・ショック(2008年)はなぜ防げなかったのかという危機管理。何より、グローバル経済は何のためにあるのかといえば、それは「人の幸福のためにある」というスティグリッツ教授の信念に触れることが出来た。

「一番読んだのは、教授の『フリーフォール』(FREE FALL)。原書で必死になって読んだんですが、市場の理論だけで放っておけばうまく行くみたいな話はとんでもないと。やはり、それはしっかりマネジメントしていかなければいけないというのは、非常に参考になりました」

 同社は、既述したように、2008年から海外を中心に大型買収を実行してきた。改めて、小宮氏がその目的と、同社の〝三買収原則〟を語る。「1つは当たり前ですが、そのビジネスの業績が良いこと。また、見通しも良いこと。2つ目は、独自のビジネスモデルを持
っていて、他社が簡単には真似ができないような専門性があること。

そして3つ目は、What isbusiness for? なんです。つまり、何のためにビジネスをやっているのかということ。この経営の価値観が共通であれば、一緒にやっていける」

 M&Aは、成長するための1つの手段ではあるが、全て最初からうまく行くというものでもない。試行錯誤もある。

 同社が08年に行った英国のキルン社買収でも、ここ2、3年間、業績がおかしくなった。ただ、救いなのは、「目指す方向が同じだということ」と小宮氏。

 困難な状況を切り抜けられるのは、価値観を共有する人たちがいるからである。

 キルン社の経営陣については、グループ全体の要員で刷新し、「今年あたりは必ず復活する」と期待をこめる。

「何のためにビジネスをしているのか、何のために働くのかが一番大事なところだと思います」という小宮氏の思い。

 ビジネスの〝ど真ん中〟は「人」である。

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本誌主幹 村田博文

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