2021-09-06

【渋沢栄一の精神を今】東洋紡社長が語る”世の中に必要とされる企業”

竹内郁夫・東洋紡社長


 ─ 付加価値の高いナンバーワン商品を増やしていくと。

 竹内 はい。ただ、ナンバーワンでもあまり大きく育っていない商品もあるので、それを伸びる分野に入れていくことも必要です。

 当社の商品は、どちらかというと繊維技術から色々なものが出てきて、それも社内ベンチャー的に生まれてきた事業が多いのですが、東洋紡のサラリーマン的な組織の中では、どちらかというと一発当ててやろうというベンチャーマインドというよりも、つぶされないための論理が強いですね。そうなると、どうしても小粒なままになってしまう。その発想をどう変えるかが課題だと感じています。

 ─ 内部に刺激を与えるため外部の人材も登用している?

 竹内 はい。外部の方にもたくさん来ていただいています。

 いろんなキャリア、年齢の方が働いていますが、もともと紡績業界は合従連衡の歴史があるので、そこの違和感はないですね。

 前社長で現会長の楢原(誠慈)も九州電力を経て東洋紡に入ってきましたし、最近も外部の人材が活躍してくれています。

 ─ 紡績という言葉がでましたが、繊維事業の現状は?

 竹内 衣料繊維では、中東民族衣装用の生地が高級ゾーンではナンバーワンシェアです。今は、この中東事業やユニフォーム、スポーツ衣料用途など当社の素材の強みが発揮できる特定分野を中心に展開しています。


東洋紡

老朽化設備への設備投資

 ─ 事業の多角化で収益も安定してきましたが、今後の成長戦略は?

 竹内 2021年が現中計の最終年度なので、今、22年度から25年度の中期経営計画と併せて30年に向けた長期ビジョン、サステナビリティービジョンを策定しています。

 50年にカーボンニュートラルで実質ゼロを達成するためには、30年を目安に動いていかないと間に合わない。業界全体としても、サーキュラーエコノミー、カーボンニュートラルが話題になっていますので、われわれもそれに取り組みます。

 30年に向けて、カーボンニュートラルだけでなく、ESGの視点を重視しながら、多様な人材が活躍できる職場や、レジリエントな工場にしていく。工場のインフラになると、2、3年では収まらないので、5年、10年かけて進めていく必要があります。

 反省としてあるのは、過去に長期ビジョンはあったかもしれないけど、結果として幻のビジョンに終わったものもある。長期的に本腰を入れてやっていくという姿勢が少し弱かったと思います。

 他社さんも共通していると思うのですが、昭和の後半に投資が集中しているので、設備がかなり老朽化しているんですね。

 老朽化を言い訳にはできないのですが、老朽化が進むと、想定外の事故の可能性が高まります。それが今までお金がかかるとか、利益が出ないということで、あともう少し頑張ろうとやってきたのですが、それはもうやめて、使うべきところにはお金を使うということで見直しを徹底しています。

 当面、お金は使う、利益は出づらいということになりますが、5年、10年先を見据えると、必ずや会社は強くなるということで臨んでいく次第です。

 ─ では最後に、今、社内で社員にはどんな呼びかけをされていますか?

 竹内 社員に、第一声で伝えたことは「現場が主役」ということです。

 冒頭の現場をまわる話になりますが、現場の1人1人が誇りとやりがいを持って働くような職場を実現したい。ぜひ皆で実現していきましょうと呼びかけています。

 そうすれば、必ず企業価値が高まります。マルチステークホルダー主義になりますが、株主1番ではなくて従業員が頑張ってくれれば必ず業績も上がって、株主にも還元できるということで、それを謳っています。

 単に誇りややりがいと言っても誰もピンと来ないかもしれませんが、創業者である渋沢栄一の座右の銘であり、当社の企業理念でもある「順理則裕(なすべきことをなし、ゆたかにする)」が示す通りです。少し分かりやすく説明すると「世の中にとって必要なことをやっていきましょう」ということです。

 当社は、150年前、渋沢が唱えた「順理則裕」の言葉の通り、まさしくサステナビリティー、社会の問題解決の結果として企業が存続し発展するのだという志のもとで生まれた企業です。

 当社の製品、事業を通じて社会に貢献し、誇りを持てる会社になろうという強いメッセージを送っています。

積水化学の「得意技」を磨き続ける経営とは

東洋紡社長 竹内 郁夫
たけうち・いくお
1962年10月香川県生まれ。85年神戸大学経済学部卒業後、東洋紡績(現東洋紡)入社。2018年執行役員、20年取締役兼常務執行役員、21年4月社長に就任。21年7月から日本化学繊維協会会長も務めている。

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