2021-09-03

【新型コロナ】塩野義製薬社長が語る「国産ワクチン・治療薬メーカーの役割」

手代木 功・塩野義製薬社長


生活必需品の一定量は国内調達できる体制を

 ─ 新型コロナウイルスで感染症対策は国の安全保障にかかわる問題ということが再認識されました。改めて、国と企業の連携はどうあるべきだと考えますか?

 手代木 今は、国として何を調達しなければいけないのかを真剣に考えている時期だと思います。

 半導体も同じだと思いますが、どこまで国内で調達し、どこまでグローバルなサプライチェーンで調達すればいいのか。

 平時であれば、安くていいモノを海外から調達すればいいとなりますが、米中摩擦、今回のようなパンデミックでは、各国政府が自国優先主義に傾倒せざるを得ない。そうしたことも踏まえて、どうすべきか検討が必要です。

 例えば、通常の医療(手術や抗がん剤治療など)を行うために必須となる抗生物質の原料も、そういったことを検討する物資になると思います。

 実は、あまり知られていませんが、抗生物質の出発原料は100%国外依存で、わが国では全く作れない。有事の際に、国外から原料を確保できなくなれば、最終製品としての抗生物質を国内では作れなくなります。そうなると、必要な医療が提供できなくなる可能性があります。

 これは、国に主導いただく中で、民間の協力も必要ですが、わたしは年間の必要量の3分の1くらいは国内で調達できる能力をもっておくことが、国民の安心に繋がるのではないかと思っています。全量を国内で作る必要はないと思いますが、全く作れないというのも安全保障の観点からは良くない。

 皆さん、すっかり忘れておられますが、マスクであれだけ大騒ぎをしました。その後、マスクを国内で作ると手を挙げられた方々が、誰も買ってくれなくなったので、また辞めるという話になっています。政府も医療用ガウンや高性能マスクなどを一定量買い上げていますが、きちんとコーディネートされた形で調達しているというよりは「何となくの目安で調達している印象だ」とマスクメーカーの方がおっしゃっていました。

 ─ 長期的な戦略で手を打つ必要がありますね。

 手代木 その通りです。高性能マスク、抗生物質、ワクチンなど感染症対策に必要な物資を一定量は国内生産で確保するといった考え方が必要です。

 CEPIという、感染症流行対策イノベーション連合も「G7の各国はパンデミックが起こったら、100日程度でワクチンを作れる能力を持てるようにしよう」と提案しています。

 そうした中、2年後のG7の議長国である日本が「うちはやっていない」というわけにはいかないと思います。

 アカデミア、企業、そして厚生労働省を含めた政府が一体となって、持続可能な体制づくりをしていく必要があります。

 その体制の中でワクチンや治療薬の製造は民間企業が担う必要があります。一方で、感染症は流行規模の予測が困難であり、昨年、一昨年のインフルエンザが良い例ですが、全く流行しないこともあります。そうなってしまうと、その期間、ワクチンや治療薬の生産を積極的に行うわけにはいきませんし、次の年の生産計画の立案も非常に難しくなります。さらに、ずっと生産をしていなかったら設備も動かないですし、それを作れる人材を育てることもできません。

 設備があれば、いつでも作れるというのは大間違いで、常に回せる体制にしておくには、平時からワクチンや治療薬をつくり、国内に設備のない東南アジアの方々に現物としてさしあげるなどの枠組みを作ることも必要です。

 そうした枠組みで国内の生産能力を確保し、国として、どういう国々にお渡しするかまで考えておく必要があります。

 ─ 外交戦略にも大きく関わってくる問題ですね。

 手代木 そうです。東南アジアはワクチン接種率が低く、感染爆発が起きています。そうした中で、世界保健機関(WHO)からすれば、「アジアは日本の責任でしょう」というわけです。ところが、その問いに対して、現状、日本はお答えできていないのが現状です。このままでは、日本のアジアにおける位置づけはさらに低下してしまいます。

 そうしたことを踏まえると、今回のパンデミックを機に、ワクチン、また半導体なども含めて生活に必要な物資のサプライチェーンを国内に確保するためには、ある程度のヒト・モノ・カネを投下し続ける必要があると考えます。これは、国家の防衛という観点からも必要なことです。


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