2021-09-04

【人気エコノミストの提言】グリーン化は日本経済再生の起爆剤になる

2020年10月26日、菅義偉総理は所信表明演説の中で「脱炭素宣言」を行った。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言したのである。

 大和総研の試算では、温室効果ガスの排出削減目標を達成するためには、今後20年間で240兆円程度の投資が必要だとみられる。GDPの押し上げ効果は毎年平均で1・2%程度に達する。IEA(国際エネルギー機関)の試算でも、同じ期間に世界全体で68兆ドルのエネルギー投資が必要となる。

 なぜ各国はこぞって脱炭素に取り組むのであろうか?それは、「脱炭素宣言」が国際競争の中で非常に強力なカードになりうるからである。

 まず、テクノロジーの覇権争いでの追い風が期待できる。例えば、太陽電池は1位から3位まで中国企業が独占しているので、この分野は中国がリードすることになる。つまり、各国とも、脱炭素にかかわる産業で主導的な立場を取ろうとして、高い目標を敢えて掲げているところがあるのだ。

 さらに脱炭素の流れを後押しするのが「ダイベストメント」の動きだ。ダイベストメントとはインベストメント(投資)の反対語で、投資からの撤退を意味する。環境問題におけるダイベストメントとは、簡単に言うと、「脱炭素でないものからはお金を引き揚げる」動きのことである。

 世界的に脱炭素が主流になってきている今、投資家たちも石炭や石油といった化石燃料関連の銘柄は先行きが危ういとみて手を引こうとしているのだ。

「エコでないものから手を引く」動きは、「企業―投資家」だけではない。「企業―企業」も同様である。例えば、GAFAのひとつ、Appleは2030年までにすべての製品をゼロカーボン、すなわち脱炭素で作ることを目標にしている。そのためエネルギー源が100%再生可能でない取引先を、自社のサプライチェーンから排除する方針を打ち出した。

 今後、脱炭素は世界的な社会経済構造転換のきっかけとなり、経済成長の起爆剤となりうる。17年のダボス会議では、世界経済全体がSDGsを達成した時の経済効果を、12兆ドルと試算している。創出される雇用は3・8億人に達する。

 現状、日本は欧州を中心としたSDGs先進国に後れを取っているものの、実はフロントランナーになりうる潜在能力は十分に秘めている。近年、SDGsとして整理された概念は、もともとわが国が歴史、文化、伝統の中で培ってきたものと極めて親和性が高いからである。

 菅総理が脱炭素に大きく舵を切った機会を捉えて、わが国は企業や産業のあり方を抜本的に見直し、再び世界をリードしていくことが強く期待されよう。(8月12日執筆)

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