2021-08-26

【政界】解散の大義名分、経済再生も見えず、菅の足元も不穏に

イラスト・山田紳



政権末期の様相も

 菅の言葉足らずは今に始まったことではない。もっと深刻だったのは与党の対応だった。7月に経済再生担当相の西村康稔が、政府の要請に応じず酒類提供を続ける飲食店に金融機関から順守の働きかけを行ってもらうと発言した。事前に知らされていなかった与党が反発し、西村は撤回に追い込まれた。その教訓として、政府与党はコロナ対策の連絡会議を設置した。

 7月28日の初会合には加藤や西村、自民党・二階俊博、公明党・石井啓一の両幹事長が出席し、今後連携を密にしていくことを確認した。そして8月2日に政府が入院の新方針を発表した。自公の幹事長と国対委員長は翌3日の会談で、「国民に理解と協力がいただけるように丁寧な説明をしてほしい」と注文は付けたが、新方針を容認した。公明党代表の山口那津男も3日の菅との昼食で「丁寧な対応」を要望しただけだった。

 ところが、「自宅放置」のニュースが広まると自公の態度は一変した。自民党政調会長の下村博文や公明党政調会長代理の高木美智代らが次々と撤回を含む見直しを求めた。すると政府与党は新たにコロナ対策の実務者協議を設け、5日に初会合を開いた。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務める尾身茂に至っては、4日の衆院厚生労働委員会で、新しい入院の方針について「相談はない」と明言した。毎日コロナ対策を協議している専門家のトップにさえ新方針が知らされていなかった。菅をはじめ与党幹部のガバナンスの欠如を露呈した。

 こうした中、菅も広島に原爆が投下された6日の平和記念式典で行ったあいさつで、「核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くす」という重要な部分を読み飛ばした。9日の長崎の式典では会場入りが約1分遅れた。

 広島での失態は、蛇腹状にしたあいさつ文の紙をくっつけた糊がはがれず、長崎は直前に寄ったトイレが遠い距離にあったからだという。いずれも事務方のミスとはいえ、少なくとも「読み飛ばし」は、きちんと意味を理解して読んでいれば文章が不自然であることに気づくはずで、その場で修正が可能だった。

 こうなると、菅の首相としての資質が問われる事態にもなる。困難の中で開催した五輪での日本の金メダルラッシュ、ワクチン接種の促進で世の中の雰囲気をよくした上で、9月5日のパラリンピック閉会直後に衆院を解散し、9月下旬予定の総裁選を凍結した上で、衆院選で自公過半数を維持し、総裁選を無投票再選で乗り切るとの算段は崩れつつある。 (敬称略)

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